「いいからさっさと消えろよクズ共」



西野には香月が、男達には幸村がそれぞれお灸を据えた事で、3人は腰を抜かしながらも足早にそこから出て行った。他の者もそれまでは犯人に言いたい事が山ほどあったのだろうが、2人の威厳を見ると圧倒されてしまったのが現実だ。度々厳しい事は言いつつもあそこまで怒りを露わにする機会は中々無かったので、初めて見る2人の姿に恐怖すら感じた者もいた。

しかし何はともあれ、これでようやく泉を救い出せた事には変わりない。彼らは皆、今は跡部に抱えられている彼女の周りに輪になるように集まった。



「目立った外傷は無いようですね。極度の恐怖で意識を失ってしまったのでしょうか」

「考えただけで辛いです」



柳生がそう言えば、鳳は今まで我慢していたのを精一杯出すように泣き始めた。その子供の様な泣き方に彼らは苦笑するが、安心したのは自分達も同じなので咎めるような事はしない。

そうして緊迫した雰囲気が和らいで来た頃、忍足はずっと気になっていた事をやっと口に出した。



「ほんでどないしたん、跡部」



その言葉により全員の視線は跡部に注がれる。中には忍足と同じように気付いていた者もいたのか、特に芥川は不安そうな顔で彼を見つめた。



「跡部、何か言ったらどうだ」

「空気を読め弦一郎」



そんな会話が傍らで繰り広げられても彼は一向に口を開かず、ただ自分の腕の中に居る泉を見つめていた。しばらく話し出すのを待ったがそれも無駄だと気付き、忍足は一度溜息を吐いてから再び話を切り出す。



「自分、泉の事家まで送ったり」

「俺がか?」

「優さんに連絡すれば中に入れるやろ。あの人保護者代理なんやし、この事も伝えなあかんで。それはお前がやり、跡部」



そこで跡部の顔が初めて困惑したものになった。眉は下がっており、いつもの彼らしさは何処からも感じられない。しかし周りも忍足に同調するように頷いているので、彼は意を決したように立ち上がり、そのまま出口に歩いて行った。



「迎えの車は別に寄越しておく。すぐ来るだろうからそれに乗って各自帰ってくれ。立海、協力してくれてありがとう」

「これくらいお安い御用だよ。むしろ君からお礼を言われるって事が貴重だ」

「うるせえ」



跡部の後姿を見守る彼らの表情は優しい。自分達も泉を介抱してやりたいだろうに、仲間の為にこんな表情を浮かべられる彼らを、傍らで見ていた忍足は誇らしく思った。



***



「景吾おぼっちゃま、朝倉様は大丈夫ですか?もし何ならこのまま病院へ向かいますが」

「いや、この程度のかすり傷なら俺が手当てする。ただ眠っているだけだ。このまま泉の家に直行してくれ」

「かしこまりました」



俺が泉を抱えて倉庫を出ると、既に執事が車を用意して待っていた。あいつらの迎えの手配はそいつに任せるとして、とりあえず用意されていた毛布を泉にかけて寝かせておく。そしてその間に、俺は連絡するべき人がいる。



「もしもし、優さん」

「おぉ、景吾じゃねぇか。どうした?」



気さくな声に申し訳ない気持ちがまた込み上げてくる。泉の保護者でもある優さんにこの事を話すのは気が引けるが、話さない訳にもいかない。だから何度か言葉に詰まりつつも事の経緯を要約して話すと、優さんは落ち着いた声で話し始めた。



「そうか、そんな事があったのか。最近忙しくてあいつに構ってやれてなかったから、学校での状況とか何も知らなかったぜ」

「すみません、俺の注意力不足で」

「お前のせいな訳があるか!謝る必要どこにもねぇって。とりあえず今から泉の家に行くから、先に部屋の鍵開けて待ってるぜ。部屋番号はわかるな?」

「はい。手間をかけさせてしまいすみません」

「だから謝んなって!そんじゃ、後でな」



必要最低限の会話だけを交わし、静かに電話を切る。優さんは平然を装っていたけど、内心泉が心配でたまらないのは明白だ。

未だ目を覚まさずに眠り続けている泉の頭を撫でながら、俺も目を閉じる。起きた時にこいつがどんな表情を浮かべるのかを考えたら、柄にも無く怖いと思った。
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