「赤也、どうした?」

「何か今、ガラスの割れる音が聞こえたと思って」

「行ってみっか」



柳から伝えられた逃走場所に使えそうな辺りをとりあえず走り続けていると、急に赤也は立ち止まってそんな事を言い出した。逃走場所候補に選ばれただけあってこの辺に人気は無く、音が聞こえた方に何があるかも知らない。

最初幸村君が泉が攫われたと言った時、何が起こったのか全く理解出来なかった。俺より早く状況を飲み込んだ赤也にリードされたのは癪だけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃねえ。



「此処か?」

「あそこっす!窓割れてます!」



そうして音がしたであろう場所に着くと、そこには古びた倉庫があるだけだった。赤也が指を差した方向を向けば、1枚のでっけえ窓が無残に割られている。破片がまだ地面に落ちている所を見る辺り、さっきの音は此処から出たっつーので正解だと思う。



「先輩、これ」

「このナンバー…間違いねえ。犯人たちの車だ、っておい赤也!」



更にすぐ近くには乱暴に停められた、幸村君が言ってたナンバーのバンがあった。間違いないと確信した俺はとりあえず入り口に回ろうとしたけど、てっきり後ろから着いて来てると思えば、赤也はまだ尖ったガラスが縁から出てる窓に何の躊躇もなく飛び込んで行った。すれ違いざまに見たあいつの目は、真っ赤だった。

俺も今すぐにでも行きたい所だけど、今の赤也なら確実に1人で犯人達を潰せる。それよりもその後の赤也を止める方が大変だ、あと幸村君にも報告しねぇと。赤也の歯止めが効かない今は、俺が冷静でいなきゃいけねぇ。

 頼むぜ赤也。

心の中でそう言いつつ、あいつ犯人殺さねえかな、と若干物騒な事を思った。



***



「わかった。それぐらいの目印があれば後はこっちで分析するよ。すぐに行く」



用件を聞くなり俺はすぐに電話を切り、蓮二に向き合った。奴も電話の内容を把握したのか、手に持っている携帯は既にマップの画面だ。

ブン太からかかって来た電話の内容は泉の居場所を伝えるものだった。あいつの声は酷く落ち着いてたように聞こえたけど、多分実際は自分を保つのに精一杯なんだろう。でもそれは今は置いといて、ブン太から聞いた周りの建物とかを蓮二にそのまま伝えると、蓮二はすぐに目処を立てた。



「ここから8km先にある今はもう使われていない倉庫だ。あの2人、短時間で随分走ったようだな」

「それほど必死だったんだろうね。蓮二、他の奴らにも連絡して。俺は跡部に連絡する」

「あぁ」



連絡の為に立ち止まる暇も無く、俺達はさっきよりも速い速度で目的地に向かい始めた。互いに電話を終えればその間に会話は無くなり、ただひたすら無言で走り始める。一刻も早くあの子の安否を確認したいのは誰もが同じだった。
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