「おい忍足!どうしたお前!」

「聞こえてる!?」

「…宍戸と、ジローか」



ジローと共に朝倉のマンション前まで来れば、そこには完全に意気消沈している忍足が蹲っていて俺達は慌てて駆け寄った。いざ肩を揺らして話しかけてみても反応はこのザマで、俺達と目すら合わせようとしない。



「どうしたの?泉は?」

「連れてかれた。俺のせいや」

「おい、それって」

「宍戸さん!」



何を言っても自分を責め続ける忍足をとりあえず落ち着かせようとしたが、その時長太郎が切羽詰まった声で俺の名前を呼んで来た。長太郎と日吉は無防備に開いていた裏口に即座に駆けつけ、忍足の元に来た俺達とは別行動を取っていたのだが、後ろを振り向けば戻ってきた2人の背中にはなんと気絶してる岳人と、かろうじて意識がある樺地がいた。それを見た忍足の表情が、更に傷付いたものに変わる。



「樺地、説明出来る?」

「ウ、ス」



ひたすら戸惑う俺達の為に樺地がポツリポツリと話し始める。途中で忍足も相変わらず死にそうではあるが、ゆっくりとその説明に加わった。

が、2人の話は到底信じられるものではなかった。

話を繋げるとこうなる。岳人と樺地が朝倉にドアのロックを解除してもらい即座にエレベーターに乗り込もうとした時、後ろから誰かにスタンガンか何かで襲われそこで2人は気絶した。

その後忍足が駆けつけたが朝倉はインターホンに中々出ず、必死の思いで電話をかけたら出たのは西野だった。そして後ろを向いたら外に朝倉と2人の男と西野を乗せた車があって、追いかけようと走り出した瞬間車は逃走。

つまり、朝倉はさらわれた。

2人の男は恐らく西野の従兄弟、もとい、合宿で切原に話しかけた野郎達だ。まさかここで本格的に使ってくるとは思っていなかっただけに、西野の朝倉への執着心が窺えてつい鳥肌が立つ。



「ほんますまん」

「すみま、せん」

「誰のせいでも無いよ。俺達の中で悪い奴なんていない」



ひらすら申し訳なさそうにする2人に、ジローが至極真面目な顔で言葉をかける。隣を見れば長太郎が今にも泣きそうな顔で歯を食いしばってたから、俺は奴の背中を一度強く叩きちゃんとするように喝を入れた。



「岳人起きたら、何て説明すればえぇんやろ」

「とりあえず跡部さんに報告しましょう」

「今の跡部部長にこれを言ったらどんなショックを受けるか」



忍足の呟きには日吉が返し、岳人を俺に任せて携帯をポケットから取り出す。泣きそうになるのを堪える仕草は無くなったものの、そう言った長太郎の顔はまだまだ不安げだ。確かにそれは正論で、今までの経緯を見ても跡部が1番ダメージを受けているに違いない。



「てめぇら何一人前に俺様に気使ってんだよ」

「あと、べ?」



とそこで話題の人物の声が聞こえ、即座に後ろを振り向けばそこには凛とした表情で立っている跡部がいた。こいつが現れただけで一気に場の雰囲気が変わり、俺達は急いで駆け寄る。



「話は一部始終聞かせてもらった。お前ら、これ乗れ」

「あとべ、大丈夫?」

「今は泉を救い出すのが第一だ。忍足、車のナンバー覚えてるだろうな」

「…当たり前や」



澱んでいた空気に一気に解決の兆が差して来て、誰もが意気込んだように表情を改める。やっぱ跡部、お前すげえよ。口には絶対出さないそれを奴を見ながら思っていると、不意にその視線はこっちに向いて「ぼーっとしてんじゃねえぞ」と言われた。だからそれには、さっき長太郎にやったよりも強い力で背中を叩いて黙らせた。不満そうなのは見ねえフリだ。

そうして俺達は、跡部の家にしては珍しい質素なキャンピングカーに乗り込んだ。



「部長、この車は」

「レンタカーに決まってんだろ、自家用車じゃ目立ってすぐ気付かれる。運転手はいつもの執事だ」

「あとべはどうやって行くの?」



とジローが問いかけたその時、上空から物凄い音と風が吹いてきた。



「上からの方がわかりやすい。俺は香月とヘリで徘徊する」

「景吾早く乗って!」

「…大胆やな」


どんな時も姿勢を崩さない跡部に俺達は若干呆れつつ、何はともあれこれでようやく行動に移せた。さっきまで感じていた不安を何処かへ消し去り、朝倉を助け出す一心で車は発進する。待ってろよ、朝倉。



***



「わかった。すぐにこっちでも探しにかかる」



そう言ってすぐに通話を切れば、俺の表情に気付いた奴らは不思議そうな顔でこちらを覗き込んで来た。



「幸村君どうしたの?」

「跡部からだった。泉を見つけ出すよ」



質問をしてきたブン太を始めに、全員の間抜け面が俺の目に映る。それくらい跡部からの電話は俺達にとって衝撃で、でも今は自分達の感情を優先している暇は無い。狼狽える奴らに、泉を攫ったという犯人の車の特徴、ナンバー、中に何人乗っているかを迅速に伝える。



「俺あっち」



言い終えるなり即座に動き出したのは仁王だった。それを区切りに赤也がまず動き出し、続いてブン太、仁王の後を追う柳生、真田に続きジャッカル。学校の帰り道、この歩道橋に残されたのは俺と蓮二の2人だけになった。



「逃走範囲の大体の目星はついた。隠れる場所にふさわしそうな人気の無い場所もピックアップしたぞ」

「それじゃあそれを跡部にも伝えて。俺達はまた違う方向から探そう」



そして俺達も全速力で駆け出した。今日は幸い部活はオフだ、存分に余ってる体力は全部泉を探し出す為に使う。仮に疲れ切って体が悲鳴をあげても、泉が助かったという情報が入るまでずっと探し続ける。

 どうか、元気な君に会わせて。

祈りにも似た叫びを心の中であげ、俺は走る力を一層速めた。
 5/5 

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