「うわ、何こいつら」 そう言いつつもどこか楽しげな香月につられ、到底上がりそうになかった俺の口角がつい上がった。 「どいつもこいつも馬鹿か」 「ほぼ同じタイミングで一斉に来るっていうのがまたなんともねぇ」 俺達の携帯画面には、あいつらからのメールがズラリと並んでいる。たった5分以内に一気に来た時は何かと思ったが、開いてみれば揃いも揃って泉に会いに行くという内容のものしかなかった。中でも日吉がジローの家に行ったのは意外だったが、そんな事がどうでもよくなるくらい悩んでいるのが馬鹿らしくなった。 「これは私達も馬鹿になるしかないのかな」 「らしいな」 そうして俺達は重い腰を降ろしていたその場から立ち上がり、あいつらのように何も考えずに学校を出た。昔から突拍子が無く、普段は冷静な奴も含め一度熱くなったら止まらないのは百も承知していたが、まさかここまでとは。 でも今は、その馬鹿らしさが救いになっていた。 *** こんなグシャグシャな顔人に見せられないと思っていたのに、いざインターホンのカメラに映る向日君と樺地君を見るとどうしてもそれが出来なかった。鍵を解除するボタンを押した途端に力が抜け、その場にぺたんと座り込む。 動いてくれた。私なんかの為に。あんなに息を切らしてまで来てくれた。私も泣いてばっかじゃいられない、もっと行動しなきゃ。もっと考えなきゃ。 そこでインターホンが再び室内に鳴り響いて、涙で乾いた頬をごしごしと拭い勢いよく立ち上がる。どんな顔をして会えば良いのかとかそんな事は構ってられなくて、ただ皆と一緒に居たいという気持ちだけが先走る。 このドアを開ければやっと会える。 「こんにちは、Miuちゃん」 そう思って、開けた先には。 *** どないなっとんねん、と怒鳴りつけたくなる衝動を抑えながら、もう一度泉の部屋のインターホンを鳴らす。でも結果は同じで一向に反応する気配は無かった。今すぐにでも会いたいっちゅーのに、勿論ドアはピクリとも動かへん。 さっき送られて来たメールを見る限り、岳人と樺地は既に此処に到着しとるはずや。なのにその2人の姿も見当たらんくて、絶対に当たって欲しくない嫌な予感が胸を疼く。 「お願いや、出てや泉」 汗ばむ手で携帯を必死に握り、力強く耳に押し当てる。もう何コール待ったのか、それでもようやく通話モードに繋がるなり俺は開口一番泉の名前を叫んだ。でも、 「侑士、どうしてなの?」 耳に入って来た声には、思わず携帯を耳から離してまうくらい嫌悪感を抱いた。 「何回手紙を書いても直接言っても、そんな風に私の名前は呼んでくれないのに」 「当たり前やろ。泉は何処や」 「そんなに私に興味無いの?」 「あらへん。泉は何処や」 猫撫で声で淡々とそんな事を言ってくる西野には、もはや狂気の様なものを感じた。それでも兎に角泉の場所を突き止めようと二度同じ質問を繰り返すと、西野はつまらなさそうに溜息を吐いたのち、 「後ろだけど?」 そう言った。 「お前、ふざけんなや!」 「本気だよ」 急いで振り向けばそこには大型のバンがあり、中には泉を雑に抱えとる西野がおった。反射的に走り出したもののその途端車も走り出し、車のドアも勢いよく締められる。あのスピードの車を追いかけるんは流石に感情だけではどうしようもならんくて、俺は小さくなっていくそれを呆然と見つめとった。 「お前、覚悟しときや」 「私はいつでも本気だからね、侑士」 互いに最後にそう言い残し通話を切る。その途端襲ってきた虚無感にどうしても耐え切れず、情けなくその場に座り込んだ。泉、ごめん、ほんまごめん。 |