退屈な授業が終わって休み時間に携帯ゲームをしていたら、急にありえねぇ噂が教室に飛び込んで来た。当然朝倉と仲が良い俺は一気に注目されたけど、んな事どうでも良かった。ただただ朝倉が心配で、それとほぼ同時に安西から来たメールを読むなり一目散に走り出していた。



「なぁ、樺地」



走っている途中で会った樺地は相変わらず無表情なのに、それでも心配してるのがなんとなく分かる。でも、本当は本気で走ったら俺より速い癖に、黙って俺のスピードに合わせてくれてる。クソクソ、一丁前に気遣いやがって。



「俺ら、今まで通りじゃいられなくなんのかな」



でも、俺のこの呟きには流石に超困ったように眉を顰めた。「わかりません」当たり前か、ごめん樺地。



「ごめん、変な事聞いたな」

「でも、自分は、変わらない、です」



と思えば不意にそんな事を言われ、後輩に励まされた自分が恥ずかしくなった俺は「おう」とだけ言ってそのでっけぇ背中を叩いておいた。こいつ、ほんと良い奴だと思う。



「あいつら、もう屋上いるかな」



そうして妙に辛気臭くなった気持ちを取り払うように、俺は屋上のドアに手をかけた。



***



「向日と樺地か。この子の頭パンクする前に寝かせたから、起こしたらぶっ飛ばすわよ」

「わかってるっつの」



2人がドアを開けると、そこには疲れたのか香月の肩に頭を乗せ眠っている泉がいた。香月は覇気の無い表情で2人を見つめる。



「とりあえず座ったら」



そう促され輪になるように座ったものの、お互い何を話し出せばいいのか分からず気まずい沈黙が続く。



「俺ら、これからどーなるんだろ」

「私が知りたいわ。こんな時、来るなんて思ってなかったし」

「だよな」



向日が居た堪れなくなって言葉を発するものの、またすぐに沈黙が降りかかる。

そんな澱んだ空気の中再びドアが開く音がし、3人はそちらに目を向けた。



「寝てるみたいですね」



入って来た顔ぶれはいつものメンバー全員が揃っており、泉が寝ているのを確認するなり極力静かに動き始めた。ようやく1つの大きな輪が出来、更には跡部の表情が思ったよりも暗くない事から彼らの気分も少なからず上がる。



「あんた大丈夫なの」

「余計な心配すんな。まずは今後の事を考える」



香月の問いかけを軽くいなしそのまま本題に入ると、全員が一瞬にして顔を歪ませた。しかし話さなければいけない事だというのも充分に理解しているので、真剣な表情で跡部に視線を送る。



「跡部、A組は混乱どころの騒ぎじゃねぇぜ。ジローも頭に血上り過ぎたしな」



日吉の隣で眠るジローの顔を見ながら、宍戸は気まずそうに言う。



「1番厄介なのはこれが世間にバレる事です。他校からも注目されますよ」

「氷帝は芸能学校でも何でもない。でも知名度は高いから、きっと転入前の学校よりも肩身の狭い思いをしちゃうよ」



日吉に続いて、滝も意見を述べる。確かにその推測は尤もで、ここまでバレてしまったとなればもう言い訳は効かない。



「俺達は、どうするべきなんでしょうか」

「私は今更周りの目なんて気にしないわ」

「俺らだってしねぇよ。問題は泉の気持ちだ」



例え自分達が気にしない、といっても、張本人の泉はかなり気にするだろう。泉の性格上、罪悪感も生まれてくるに違いない。



「俺達が今出来る事って、何なんやろ」



 一緒にいたい。

そう思うのは全員が同じであって、しかしどうすればいいのかわからないのも同じで。言い表しようのない焦燥とジレンマばかりが胸中を疼く。



「離したくねぇよ」



跡部の消え入りそうな声を最後に、彼らの間には沈黙が走った。



「ねぇ」



その時、いつから起きていたのか突如泉が起き上がった。そして、この場に相応しくない愛らしい笑顔を浮かべる。その予想もしてなかった行動に彼らは目を見開き驚きを露わにするが、そんな様子にお構いなく、泉は口を開いた。



「私、学校やめるね」



澄んだ声で紡がれた言葉は、滑稽なほどその場に響き渡った。
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