時は過ぎ、放課後。



「滝先輩に!?」

「は、はい」

「何やらかしてるんですか!」

「ごめんなさい…」



部活に行く途中の日吉君を玄関で見つけて、今日の昼休みにあったハギとの事を話したら、案の定それはもう見事に叱られた。確かに自業自得だけど、年下に説教されるという情けなさとちょっとの怖さから自然と顔が俯く。なんてこった…。



「よりによって滝先輩に…」

「だって、何もしなくても気付かれたんだよ?」



私がそう言えば、日吉君は眉間に皺を寄せながら言葉を続けた。それにしてもまさかこの変装を見破られるなんてなぁ、と未だ自分に何が起こったのか信じられない。



「まぁあの人なら言わないとは思いますけど、これから覚悟しておいたほうが良いですよ」

「覚悟?」

「おそらく弱味として扱われますから」

「えぇ!?」



学校に来るのやめようかなと本気で考えた、そんなある日。



***



俺が泉に抱いた第一印象は、失礼だけど飛びぬけて地味な子。これ1つだった。でも、間近で笑顔を見てどこかで見た事があると感じたし、凄く綺麗だとも思った。そして俺は気付いた。話していく中でたくさん見せてくれた笑顔で、彼女の正体に。



「(Miu、か)」



それがまさかモデルだなんて思いもしなかった。で、現金かもしれないけど彼女がモデルだとわかったと同時に、俺は彼女に対して興味を持った。

何故わざわざ地味な格好をしているのか、何故周りからの好意に気付かないのか、何故こんなにも人を魅了する力があるのか。

綺麗だとか可愛いといった子の大体は自分の容姿を自覚していて、それを武器にして俺ら男に近付いてきたりする。勿論全員って訳じゃないけどね。だから、ましてやモデルという職業をやってるなら尚更高飛車になるはずだろうけど、彼女は違った。もしかしたら思い上がりかもしれないけど、自分の勘にはそれなりに自信がある。

さて、これから何をしてくれるのかな。

とりあえず、相当彼女に漬け込んでる跡部がどうなってくのか楽しみだな、と思いながらまた笑みをもらす。



「今日泉見られんかったわー」

「俺は廊下で会ったぜっ!」

「俺らなんて同じクラスだCー。ねーあとべ?」

「あぁ、そうだな」

「お、俺だってピアノ聞いてもらってます!」

「何なんだよお前ら」



今日も今日とてあの子の話題で盛り上がっている奴らを見て、ユニフォームに袖を通しながら本当に凄いや、と内心感服する。全員が全員同じ感情って訳では無いだろうけど、どこかしら通ずるものはあるに違いない。



「おい萩之介」

「どうしたの跡部」



皆を眺めながらそんな事を考えていると、いち早く着替え終えた跡部が妙に強気な態度で話しかけて来た。俺に対してこういう態度をとる跡部は珍しく、素直に首を傾げる。



「余裕こいてられんのも今のうちだぞ」

「やだなぁ、俺は」

「興味から違うモンに変わる瞬間を見届けてやるよ」



言葉を遮られ、勝ち誇った笑みと一緒にそう言われる。違うモンって、まさか恋とか?俺が?やだな、そんな事あるはずないじゃん。



「自分の心配しなよ、跡部」

「うるせーよ」



あるはず、ないじゃん。
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