「目、覚めたか」



目を開けると、真っ白な天井が1番最初に入って来た。と同時に頭に鋭い痛みを感じる。椅子には景吾がいて、いつもの景吾らしくない、不安げな表情を見て事を悟ってしまった。



「腹立つ」

「第一声がそれか」



そうするなり、私の胸にはどうしようもない苛立ちが込み上げて来た。試合が終わるまで我慢してようと思っていた鬱憤が、此処に来て抑えられないくらい大きなものに変わる。



「折角楽しかったのに」

「あぁ」

「数少ない皆との思い出作りだったのに」

「あぁ」

「眼鏡も外れちゃったし、もう最悪」



最後の方で涙声になってしまったのに気付き、急いで顔を伏せる。色んな感情が一気に押し寄せて来て、今までこんな事が無かった分どうにも気持ちの整理が付きそうになかった。

しばらく沈黙が続いて、どうするべくもなくギュッと目を瞑る。すると、表情は見えていないはずのにまるでそれを悟ったように景吾は私の頭に手を置いて、そのまま優しく撫でてくれた。何を言うでもなく、ただいつもよりもゆっくりとした手つきで撫でる。



「大丈夫だ」



実際その言葉に保障なんて何処にも無いのに、景吾が言うとそれだけで本当に大丈夫な気がする。その安心感からなのか、私の頬に涙が一筋伝った。



***



「暗!」



昨日僅かながらも泣いてすっきりした私は、翌朝目が覚めると更に清々しい気分になっていた。だから教室に入る今までは全然元気だった、のだけれども。



「どうも煮え切らないっていうか、イラつく」

「わざとあんな事されて、高校最後に嫌な思い出残されてさぁ」

「気分が上がるはずもねぇな」



3人を取り巻くオーラがそれはもう真っ暗で、どれくらいかと聞かれれば思わず口に出してツッコんでしまうくらいだ。それに、3人が暗いと悪循環でクラスの皆も暗くなってしまうので、今のこの教室の空気は全校の何処よりも悪いに違いない。



「朝倉さん、昨日あの後大丈夫だった?」

「心配したんだよ!頭打った時凄い音したい」

「西野もひっでーよなー。あそこまでして勝ちてぇか?普通」

「か弱い朝倉さんになんて事を!ってな」



そうして周囲を見渡していると、目が合った半沢さんを始めに数人のクラスメイトが話しかけてきてくれた。だから私はそれに大丈夫と答え、少しでも空気が良くなるように違う話で雑談を始める。



「何しに来たのよ」



でもそこで急に香月の表情が更に険しくなり、まさかと嫌な予感を募らせながら視線の先を辿る。



「こんにちは」



するとそこには当たって欲しくなかった予想通り、西野さんがいた。厭らしい笑顔でドアの前に立っている西野さんを見て、更には気安く挨拶をされ思わず私の表情も強張る。クラスの皆の雰囲気がまた険悪になったのを感じて、完全に周囲が静かになった所で西野さんは笑みを深めながらまた口を開く。



「同じ学校にモデルのMiuがいるなんて、私、嬉しいなぁ」



空気が凍るのを、全身の血の気が引いて行くのを、嫌でも感じた。
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