「泉、シュート!」 「入ってー!!」 大声で叫ぶと同時に、ボールは一直線にゴールに入った。スリーポイントなんてあんまり入った試しが無いから自分でも驚いていると、チームの皆が駆け寄って来て瞬時にもみくちゃにされる。役立たずまではいかなくてもその逆でも無かったので、こんな風に貢献出来たのは素直に嬉しく思わず皆とハイタッチを交わす。 「泉ー!かっこEー!」 「その調子やでー」 今の時間競技が無いジローと侑士も応援に来てくれて、それにはグッと親指を立てて返す。こんなに体動かすの久しぶりだからなんだか気持ち良いなぁ、とたった1回ゴールを決めただけなのに浮かれていると、そんな私とは対照的に強張った顔をした香月が小声で話しかけて来た。どうしたの?と首を傾げる。 「相手の4番、忍足のファンクラブであんたの事思いっきり睨んでたから気を付けなさいよ」 「え」 思っても無かった事を言われチラリと視線を移せば、そこには確かに不機嫌そうにこちらを見つめているユニフォーム4番がいた。目が合った瞬間あからさまに逸らされ、ちょっと気分悪いなぁと思わず眉を顰める。普段ファンクラブの人達に何かされる事は無いけれど、皆が人気だという事実も変わらない。それが理由で皆と仲良くしてる訳じゃないのに、やっぱりそこを全員に理解してもらうのには無理があるみたいだ。 「私も気を付けて見るけど」 「でも香月はうちのエースなんだから、私の事は気にしないでガンガン点数入れなよ!」 「馬鹿。私以外にもウザい程心配する奴らがまだまだいるんだから、それくらいやらせなさいよ」 とそこで難しい顔の私を見兼ねてか、香月はそう言うと笑顔で私の頭を小突き、そのままTシャツを更に捲って違う方向に走って行った。わぁ今のキュンと来た、なんて間抜けな事を思いつつ私も頑張ろうと足先を変えた、その時。 「あ、ごめん。視界に入らなかったわ、地味すぎて」 突如体に衝撃が走り、ぶつかって来た人に目を向けるといきなりそんな毒を吐かれる。言うだけ言うなりさっさと違う方へ行ってしまったので、私は遠くにいる香月と肩をすくめ合った。ちなみに言うまでも無く4番の人だ。早速香月が近付いてマークし始めたのを見て、なんだかこの試合ちょっと先行きが不安だな、と覚悟した。 *** 「まだ終わってないですか?」 「うん、終わってないけどー…」 「けど、なんだよ」 「なーんかお怒り気味なんや」 自身の試合が終わった鳳、宍戸、跡部は、即座に泉が出ている試合に駆けつけてきた。しかし、先程の件で若干怒り気味な泉のいつもとは違う様子に気付き、少々嫌な空気が渦巻いているようだ。 「鈍臭い見た目の割に足速いんだね」 「香月!」 ユニフォーム4番、もとい、西野のディフェンスを振り切って泉が香月にパスを回すと、彼女は期待を裏切らない華麗なるシュートを決める。 「やだ、ムキになっちゃって」 「泉行くわよ、ガキ相手にしてもしょうがない」 「は?何あんた」 「何か文句あんの?」 「いいよ香月、時間の無駄」 先程から事ある毎に突っかかり続けられ、いい加減泉も堪忍袋の緒が切れたのかその声色は香月以上に冷たかった。そんな彼女の態度がやはり気に食わないのか、西野は舌打ちと共に悪態を吐き続ける。 「な、なんか泉怖いC」 「先輩大丈夫でしょうか」 「荒れてるな」 彼らが心配する中、ゲームは残り僅かで終了しようとしていた。ラストスパートという事もあってか、両チームの熱気は最高潮となっている。ドリブルやパスが幾度も繰り返され、最後にボールが回って来たのは泉の手中だった。周りからの掛け声に応えようと一生懸命ドリブルをつき、そうしてレイアップゴールを決めようとした―――その時だった。 「泉!!」 何人もの声が重なり、観客からはどよめきが起こる。 ゴールを決める為に右足を踏み込み、体を宙に浮かせたその瞬間、西野はまるでタックルをするように泉に衝突した。不安定なバランスの中にいた泉は勿論、2人は共に崩れ落ちるように床に転んだ。西野は泉に覆い被さっていた為すぐに体を起こしたが、下敷きにされた上に頭を強打した泉は意識を失ったのか、一向に立ち上がらない。 「試合中断!保健委員、ただちに」 「退場だ。委員は出なくていい、俺が運ぶ」 審判や西野、野次馬を押し退け跡部は泉を抱き抱えた。眼鏡は、外されていた。 「故意に怪我をさせるような奴がいるチームとこれ以上続けられません。棄権します」 そう言いナンバリングを脱ぎ捨てた香月を皮切りに、薄々西野の横暴さに気付いていたチームメイトは次々と同じ行為を行った。募っていた不満が爆発し言い争いが始まった所で、会場内にいた教師が止めに入り試合は中断される。残り時間は20秒、点数は34対18。試合放棄といっても理由は西野にあるので、判定は泉達のクラスの勝利となった。 しかし、そんな事実があがった所で表情が晴れる者など1人もいなかった。 |