止まない悪寒

「やってるねー」

「うん、かっこいいー」



そうして始まりました、体育祭!

練習らしい練習は正直あまりしてないけど、この気迫と熱い声援には柄にもなく燃える。ちなみに今は宍戸君がバスケに出場していて、その姿がなんとも勇ましく自然と目で追い続けてしまう。汗がこんなにも似合う人って中々いないと思う。宍戸君のファンは、普段はあんまりうるさくすると宍戸君に怒鳴られるのをわかっているから騒がないけど、今だけは別だ。興奮した様子で声援を送っている。



「どらあっ!!」

「おぉー!凄い宍戸君!」

「色んな意味でね。鼓膜破けそうだわ」



宍戸君がダンクを決めると黄色い悲鳴はより一層強くなった。確かに今のは凄く格好良かったので騒ぎたくなる気持ちはよく分かる、迷惑そうに両手で耳を塞いでいる香月は特例と言って良いだろう。



「絶好調だね、宍戸」

「流石です宍戸さん!」



競技がないハギと鳳君が隣に来て、2人と一緒に声援を送ってみると気付いてくれた宍戸君は軽くガッツポーズをしてくれた。同時に私達の周りの女の子はまたもや一気に沸き、何か物言いたげにしていた香月は気だるげに「頑張れ熱血男ー」と適当な声援を送った。頑張れ宍戸君!



***



「まさかここで貴方と戦うとは思ってませんでしたよ」

「ビビってんのか?」

「そんなはずないでしょう」



所変わって、グラウンド。



「な、なんか怖くない?」

「燃えてるわねー。ていうか芥川、大あくびしてるけどアンタは出ないの?サッカー」

「ふあーあ。うん、出ないよー補欠にしといた。跡部と日吉が出るの知ってたし、なんか白熱しすぎてついていけなさそうだC」



此処ではサッカーが行われており、ジローの言う通り景吾と日吉君は何故かすごーくバチバチと火花を散らしている。本来対戦相手が自分より強ければ強い程燃えるジローも、自分が置いてけぼりにされそうな試合は嫌なのか今にも寝そうな目で2人を見据えていた。自分が楽しくなきゃ意味無いもんね。それはそれでジローらしい。



「両チーム、礼!」

『お願いします!!』



まるで怒号のような挨拶に圧倒されつつ、外野の盛り上げに合わせて私も小さく拍手を送る。ちなみに氷帝の体育祭は学年別ではなく全学年総当たり形式となっている。勝つなら本当に1番じゃなくちゃ意味がない、という榊先生の考えが発案されてからそうなったらしい。確かにその方がやりがいがあるし、見てる方も楽しい。



「うっわ、超張り切ってる」



香月の言葉で意識をグラウンドに戻すと、そこで繰り広げられている試合はもう凄いとしか言いようが無かった。何ていうか、既に景吾と日吉君の個人戦になってる。



「おい、そんな脚力で俺様に追いつけると思ってんのか?」

「下克上だ!」



2人とも興奮してるせいかフェンス前方のこの場所まで会話が聞こえる。相変わらず煽り好きな景吾には、3人で顔を見合わせて笑った。

しばらく探り探りの蹴り合いが続いたのちに、日吉君がチャンスを伺ってボールを取ろうと前に回った直後、景吾はそれまでの個人プレーをやめてサイドにいた菊池君にパスを回した。彼もまた運動神経抜群で有名だ。



「日吉、テメェはまだ甘いんだよ」



再び菊池君から回ってきたパスは宙高く浮いて、それを日吉君がヘディングで防ごうとする前に景吾はバック転をしながらボールを蹴り、華麗なシュートを決めた。「早速オーバーヘッドキックかい」と香月が言う。なるほど、あれオーバーヘッドキックって言うんだ!初めて生で見たそれに自然と大きな拍手が出る。



「俺様の美技に酔いな!」

『キングーーー!!』



パスを回した張本人の菊池君も、まさかあの技で得点を決めてくれるとは思わなかったみたいで、してやられたという顔で頭を掻いている。観客は男女問わず盛大に沸いて、景吾はチームの人にもみくちゃにされている。



「跡部やべぇよ!かっっこよすぎだろ!俺今ガチで惚れた!」

「俺も!跡部ファンクラブ入ってくるぜ!」

「キング最高ー!!」

「気安く抱きついてんじゃねぇよ」



もみくちゃにされている景吾は口では悪態を吐きながらも、実際はちょっと照れくさげで嬉しそうだった。そんな珍しい姿を見て、なんだかこっちもくすぐったい気分になる。



「勝った訳でもないのにあの騒ぎ様。しかも景吾めちゃくちゃ顔緩んでるじゃん」

「ね、楽しそうだねー」



さっきのシュートを見て覚醒したジローは、興奮して選手じゃないのにグラウンド内へ入って行った。そろそろ審判に引き戻されてくると思うので、私と香月はそれをからかっちゃおうと思う。



「泉先輩」

「あ、日吉く」

「次は決めますから、見てて下さい」



するとその時、日吉君が小走りでフェンスまでやって来た。何かと思えば相槌を打ち終える前に小声でそれだけを言われ、顔を微かに赤くして走り去って行く。私はそんな彼の姿に母性本能がくすぐられる思いに駆られつつも、「ちゃんと見てるからね!」と大きめの声で返事をした。体育祭、予想外に楽しい!
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