いくら混んでる所が嫌いとはいえただ突っ立ってる訳にもいかなく、一応ボールを持って形だけでも練習してる風を装ってみる。とはいえ1人じゃドリブルやシュート練習しか出来ないから、実際は皆が動き回ってるのを見ながら凄いなぁと感心しているだけだ。



「朝倉さん、一緒にパス練しない?同じチームだし、これからよろしく」



そうしていると、背後から同じクラスの半沢さんがお誘いに来てくれた。いつも何事にも一生懸命な彼女は、今もボールを両手でしっかり持ちながらハツラツとしている。そんな半沢さんにつられるように私も笑顔を浮かべ「こちらこそよろしくね」と挨拶を交わしてから、私達はもっと広いスペースに移動した。

始まったパス練習は運動と呼ぶにはちょっと軽すぎるくらいで、それこそ汗なんて全くかかない程度だ。それよりも弾む会話の方が楽しくて、つい練習はそっちのけになる。



「朝倉さんって凄いよね」

「ん?何が?」



とそこで思っても無かった事を不意に言われ、思わずボールを投げる手が止まる。そんな私に構わず、半沢さんは話を続ける。



「朝倉さんが転入してきて、跡部君とか安西さんの表情が一気に柔らかくなったもん」

「そうなの?」

「そうだよー!芥川君なんて更に明るくなったし、起きてる時間も多くなったし。っていうかテニス部皆変わったよねって女子は言ってるよ」



分かってはいたけど、女子が私達の事を噂している事実を直に知らされ、それを良いのか悪いのかどっちの意味で捉えればいいかわからず、つい苦笑と共に首を傾げる。すると半沢さんは私の表情に意味を理解したのか、慌てた様子で「違う違う!」と両手を顔の前でブンブンと振った。



「別に悪い噂じゃないよ!そりゃ最初は嫉妬もあったけど、あんなに格好良い貴重なテニス部が見れるなら良いかーってなったの!」

「だったら安心出来るかな」

「当たり前じゃん!それに、朝倉さん可愛いし性格良いし」



お世辞とは言え半沢さんの気遣いは目に見えたので、これ以上そうさせないように再びパス練を再開する。



「なんか雰囲気が優しいし、物腰柔らかいし!お嫁さんにしたい感じだよね!」



女子間特有の褒め合いはあまり得意では無いのに、半沢さんの言葉だと素直に受け止められるのは彼女の人柄のおかげだろう。だから色々な意を込めてお礼を言うと、彼女もようやく安心してくれたのか声のトーンが落ち着いたものに切り替わった。って言っても、かなりのお喋り好きなので話はまだまだ止まらない。



「でもね、今までどんなに可愛くて性格の良い子にも振り向いてこなかったテニス部の皆が、今はこんなに朝倉さんにゾッコンじゃない?」



よく分からない問いかけに固まれば、次は半沢さんがボールをパスする手を止め、代わりに眩いほどの笑顔を向けてきた。



「だからね、朝倉さんって何か秘密があるのかなーって思っちゃった」



そして、相変わらず可愛い笑顔でそんな事を言われる。



「秘、密?」

「なんかごめん、そんな固まると思ってなかった!ただの思い過ごしだからそんな気にしないでよー。ていうか集合かかったみたいだしそろそろ行こう!」



相槌を打つのにちょっと長い時間を要すれば、その瞬間またパッと表情が変わって話を流される。確かに、私には人とは決定的に違う秘密がある。図星過ぎて何も反応出来なかった事に後悔しつつも、先を歩く半沢さんの背中から目を離せない。更に、最後に向けられたあの笑顔は、なんだかほんの少しだけ怖かった。
 3/3 

bkm main home
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -