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「(…結局泊まりか)」



夜は更け、午前2時。床に無造作に寝転がるメンバー達を見ながら跡部は毎度の如く溜息を吐いた。もっとも、それは決して悪態から来るものではないのだが。

バーカ、とすぐ傍らにいる、丸井のお腹を枕代わりに寝ている泉に声をかける。勿論返事は無いのだがそんな彼女の頭を優しく撫で始めた。しかししばらくそうしていると彼女は寝返りをうち、それを合図にゆっくりと目を開けた。



「悪い。起こしたか」

「大丈夫、だけど…うわーなんか頭痛い」

「1杯でこんなんになるとか相当だぞ。後、お前の正体もバレた」



え゛、と濁った声が出る。覚えていない事実を聞いてすっかり意識が冴えたようで、泉は飼い主の機嫌を窺う犬のように跡部を上目で見た。それに対し彼は苦笑で「まあ良いんじゃねえの」とかわし、隣に座って来た泉にクッションを渡してやる。



「酔いは完全に冷めたみたいだな」

「お陰様で。でも、記憶はあんまり無いけど、なんか凄い幸せだったなあ」

「それなら良かったんじゃねえの」

「うん。景吾、いつもありがとうね」



会話の途中で唐突にそう言われ、予想だにしていなかった跡部は眉間に皺を寄せて泉を凝視する。「やっぱりまだ酔ってんのか?」「酔ってないから!」そんな会話を交わした所で彼女は視線に耐えれなくなったのか、先程渡されたクッションに顔を埋めた。



「ただ言いたくなっただけだからおやすみ!」



くぐもった声にしばらくどうしたものかと考えた後、跡部は意を決した。



「そんな格好してたら安眠出来ねえだろ」



どんな反応が来るか考え物だったが、泉は強張っていた肩を次第に和らげ、最終的には完全に跡部に身を任せる形となった。更に数分後には規則正しい寝息が聞こえて来て、頼られているのか油断されているのか微妙だな、と自分でやっておいて苦笑する。



「頼られてんな、お前」



その時背後から声がしたので泉を起こさないように振り返ると、そこには頬杖を付き微笑んでいる優がいた。この様子では一部始終見られていたのだろうと勘付き、まさか見られていたとはと跡部は若干表情を硬くする。そんな彼を見て優はなだめるように口を開いた。



「別に父親じゃねえんだから泉は渡さん!とか野暮な事言わねえよ。人懐っこいようで結構気遣うから、そんな安心した顔も珍しいしなぁ。それでも1番の拠り所は俺だろうけど」

「それは認めざるを得ないですね」

「生意気ー!んま、そんぐらい強気じゃねえと泉の事は任せられないって事で免除」



そこで不意に「優さん、俺」と話を切り出した跡部を見兼ね、優は口を閉じる。



「こんなに大事なものが出来た事って今まで無いんです。だから正直戸惑う時も結構あるけど、守って行く自信だけはあります。まぁ、当の本人がそういう気になるなんてあんまり考えられないですけど。何にせよ優さんに心配かけないので安心して下さい」

「…おう。任せた」



外の風でカーテンが揺れ、2人の間には柔らかい夜風が流れ込む。



「いやー景吾お前マジでかっこいい!俺と付き合うか!」

「ここは夢の中じゃないですよ」

「寝言は寝て言えってか、辛辣ー。でも確かに眠いし寝るわ!」

「おやすみなさい」



そしてまた静かな時が流れる。寝ると言った手前確かに寝る体勢には入った優だが、寄り添う2人の後姿をなんとなく見ていたくなり、本当に眠りについたのはそれからしばらく経ってからだった。
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