3 「おいお前ら、まさかこれで終わりだなんて思ってないだろうな?」 跡部が持って来たケーキは予想通り全員に大反響で、最後の方は誰が余ったものを食べるか戦争が起こったくらいだった。そんな夕食を食べている時と変わらず賑やかだったデザートタイムもようやく終わり、各々自由に過ごし始めたその時。不意に優は立ち上がり彼らに話しかけた。明らかに何か企みを含んだその発言に、泉も焦ったように立ち上がる。 「ちょ、ちょっと優兄?」 「ジロー!持って来い!」 「はーい!」 「ジロー!?」 いつのまに打ち合わせしたのか優の言葉に忠実に動いた芥川を見て、いよいよ泉は頭を抑えたい衝動に駆られる。その間にも芥川は隅の方から何やら大きな紙袋を持ってきて、意気揚々とそれを優に手渡した。既に何かを察したのか、跡部ははあと深いため息を吐く。 「今日は特別だ、ちょっと飲んでみろ!海外トップクラスの高級品だぞ!」 そして、どん!、と彼が出したのは、見るからに高そうなワインだった。勿論アルコール成分が含まれているため、泉は一気に苦虫を潰したような表情を浮かべる。 「優兄、スポーツ選手にそんなもの」 「わー!ワインだ!俺飲んでみたかったCー!」 「ジロー、自分袋の中身把握してなかったんか」 「酒って苦くないッスかー?」 「辛口と甘口両方あるぞ!20歳になってから酒の味を知るんじゃ遅すぎるぜ」 しかし泉のその言葉はテンションが上がっている彼らの声に掻き消され、結局止めるに止められない雰囲気となってしまった。どうしよう、と項垂れてる泉の元に宍戸は近づき、声をかける。 「ま、酒の席に呼んでくれるっつーことは俺達のこと認めてくれたって事だろ。こっちとしては嬉しいぜ」 「…宍戸君、随分知ってるんだね。まさかいつも飲んでる?」 「飲んでねぇよ!親父が酒豪なんだよ。で、酒は仲間としか飲みたくないつってたからよ」 そうは言うものの表情は動揺している。とはいえ他のメンバーもすっかり乗り気な為、泉は先程の跡部よりもずっと盛大な溜息を吐いた後、諦めたようにグラスを取りにその場を離れた。 なんで男の子ってこうなのかなあ。一緒にグラスの用意をしてくれている香月にそう愚痴ると、彼女は大層楽しそうにしながら泉の頭を撫でた。 *** 「んじゃこれからもウチの泉をよろしく!かんぱーい!」 流石に最初という事で無理をさせる訳にはいかないので、グラスの中身は全員少なめに統一されている。優の掛け声に全員テンション最高潮で答え、大宴会が始まった。 「景吾お前ワイン似合うなぁ」 「親父によく付き合わされるので」 「え!?」 「ノンアルコールだっつーの」 まだ抵抗が残っているのか泉は跡部の言葉に大きく反応し、そして彼らのグラスに入っている飲み物を見ては難しい顔を浮かべた。 「うめーっ!」 「おぉ岳人、飲め飲めー」 「…もういっか」 「一気!?大丈夫なのか!?」 しかし、周りが楽しんでるのに自分だけ渋っているのが馬鹿らしくなったのか、そのまま自棄とも言える飲み方でワインを喉に流し込んだ。その光景にはジャッカルを始め誰もが釘付けとなっている。 「優さん、朝倉強いんすか?」 「さぁ、こいつと飲むの初めてだからな」 「先輩、控えめにしておいた方が」 宍戸の質問に答えた優の返事はなんとも頼りないもので、それに対し日吉は呆れた後泉に近寄った。最初は平気そうだったが、みるみるうちに顔を真っ赤にしとろんとした目になった泉を見兼ねて、彼は水持ってこようと思い席を立つ。 いや、正確には立とうとした。それが出来なかったのは泉が袖を掴んで阻止した為である。 「嫌だ、行かないで」 潤んだ瞳に日吉の意識が全部持って行かれる。 「大変やー!日吉が鼻血出して倒れたでー!」 果たしてこの一晩、どうなる事やら。 |