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「よし泉、そろそろ持ってこい」

「はーい」



ご飯も食べ終え自然とまったりモードになりつつあった時、優兄のその言葉でデザートタイムに入る事にした。予想通り高級店の袋に入っていたデザートは、さっきちらっと見た所すごーく美味しそうなケーキがホールで2個も入っていて今から食べるのが楽しみだ。でもその前に机の上を片付けなきゃいけないので、



「ごめん皆、自分の分だけでいいからお皿とか持ってきてもらっていいかな」



そう言えば皆はぞろぞろと列を作って持ってきてくれた。普段は使わないけど、今日は何せこの人数だ。久々に自動洗浄機を使おう。



「泉、台拭きくれへん?」

「はい、お願いしまーす」

「おおきに」



細かい所までよく気が付くなぁ流石だなぁ、と感心しながら侑士に台拭きを手渡す。するとそれと入れ替わりに隣に誰かが立った気配がして、目を向けるとそこには景吾がいた。一目こっちに目を向けてから何を言うでもなく手伝いを始めた景吾を見て、「何か新鮮だね、写メ撮って良い?」と素直に思った事を言えばデコピンが返って来た。ちぇー。

とまぁそんな風におでこをさすりつつ、洗浄機のスイッチを押して、綺麗に平らげた鍋をとりあえず流しに置いといて。これでようやくケーキを出す準備が出来る。



「朝倉さん、紅茶淹れましょうか?」

「俺も手伝います!」

「ありがとう、柳生君、鳳君。そこの引き出しの2段目に茶葉あるからお願いしてもいいかな」



紅茶は紳士2人に任せるとして、人数分のカップを出す為に食器棚とキッチンをひっきりなしに行き来する。流石にこの人数分のティーカップは無いから、ある人はマグカップだったりとちょっと不恰好だ。でもそんな事を気にする人達でも無いからいっか、と自己解決。



「アールグレイ、ダージリン、キーマン、ウバ、アッサム、種類が豊富ですね」

「えぇ、しかもダージリンは高級茶葉のキャッスルトンです」

「流石泉先輩!素敵すぎます!」



一方2人は色々な茶葉を出してどれにしようか迷ってる感じだったので、私がその問いかけを皆の前で口に出すと、大抵の人からは「何でも良い」という答えが返って来た。それ以外では優兄がアッサム、景吾と精市がダージリン、ハギがウバ。景吾の舌にこのダージリンが合うかが微妙なラインだけど、一応取り寄せで親が送ってきてくれてるやつだし大丈夫だよねー、とここでもまた自己解決。



「先輩は何がいいですか?」

「じゃあ優兄と同じアッサムお願いできるかな?」

「わかりました」



鳳君から言われた質問に答え、お礼を言って。黙々と紅茶を淹れ始めた2人を見て、私も切り分けたケーキを皿に移す作業に入ろうと腕を捲る。確かホイップクリームが余ってたしそれも使っちゃおう。



「皿は此処か?」

「え、景吾?」

「手伝うぜ」



とそこで再び現れた景吾に、思わず口をポカンと開ける。さっきのは気まぐれじゃなかったんだと思いつつまた変な事を言ってデコピンされるのも嫌なので、私は大人しくありがとうとだけ言った。そうすると照れ気味に顔を逸らした景吾が、なんだかちょっと可愛く見えたりして。



***



「跡部さんってあんな顔するんッスねえ」

「泉と俺には甘いんだよー」

「確かにジローにも甘ぇな。んま今じゃ朝倉に冷たくしてる跡部の姿が思いつかねぇよ」

「あんな接し方跡部がファンにしたらファン卒倒してまうで」



自分達に茶葉の種類を聞き再びキッチンへ戻っていった泉の背中を見て、跡部は急に立ち上がった。何をするかと思えばおもむろに彼女の手伝いを始め、その光景に立海は驚いたように目を丸くしている。



「なんか一歩越されたって感じだよなー。っつーかあんな空間作られちゃ邪魔できねぇし」

「合宿でもしょっちゅう跡部彼女の事気にかけてたしね」



そう言う丸井と幸村のようにしばらくは跡部と泉を見ていた立海だが、次第に話題は逸れていった。



「どんだけガン見してんのよ」

「別に」

「まぁ聞かなくても分かるけど」

「うるさいなり」



しかし仁王だけはじいっと2人の姿に見入っていて、そんな彼の弱点をついた香月はそれはそれは楽しそうに口角を上げた。反して仁王はどこか拗ねたような表情を浮かべ、2人とも感情は違うがまるで子供のようだ。



「跡部あの感じは今に始まった所じゃないから。あの程度じゃ泉はまだ落ちないわよ」

「ほんっとなー、昔からモテんのに鈍感っつーか、恋愛に疎いんだよなーアイツ」

「かっこえぇのう、跡部」



からかい過ぎては流石に悪いと思ったのかそうフォローを入れると、ちゃっかり優も話題に入り込んできたがそれは軽くスルーし、仁王はサラッとそんな発言をした。それに対し優はハッとした表情になり、



「え、何、お前そっち?」

「誤解しないで下さい」



ピンと指先まで伸ばした右手を頬に添える。しかしそればかりはスルー出来ないと思ったのか仁王は至極真顔で彼の言葉を遮りつつ反論した。その一連の流れを見て苦笑した後に、香月が「じゃあどういう事よ」と問いかける。



「んー、本気になったらあんなに一途になるんじゃなーて」



尊敬と嫉妬が入り混じって複雑な表情になっている仁王は、その言葉を区切りに2人の後姿から視線を逸らした。更に気を紛らわす為にポケットから携帯を取り出してみせたが、それが気休めだという事に優と香月が気付かないはずがない。



「別に景吾だけが一途って訳でも無いんじゃない」

「は?」

「あんたら見てると思うけど。全員馬鹿みたいに正直じゃん、あの子の前になると」



頭の上に疑問符を浮かべている仁王を残し、香月はそのままトイレに行くと告げ立ち上がった。スタスタと早足で去って行く彼女を見ながら、優は堪えかねたようにプッと噴き出す。



「フォローの入れ方下手だよなぁあの子」

「…今のフォローだったんですか」

「それに気付かないうちはあの壁はまだまだ高いなぁ」



あの壁、と言いながら優が指した先は跡部だ。やはり、従兄弟の彼の目から見ても奴の存在は違うのか。改めてそれを確認した仁王は一言「プリッ」と言ってからまた携帯を弄り始めた。
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