君達で良かった

「ほんじゃ、今日は来てくれてありがとうな。まぁ泉の面倒を見てる者達の集いっつーことでカンパーイ!」



優の言葉に全員が「乾杯!」とグラスを高く掲げた所で、ようやくパーティーが幕を開けた。しかし泉だけは拍子抜けしたように眉間に皺を寄せており、その様にまた全員が笑う。



「面倒を見てる、って、私そんな子供じゃないんだけど」

「そうかしら?」

「まぁペットみたいなもんだろぃ」

「っすね!」

「ええー?」



優に続き香月、丸井、更には年下の切原にまでそう言われ、いよいよ不貞腐れた表情で飲み物をちびちびと飲み始める。それが子供のようだという事には、当の本人は気付いていない。



「シメにはうどんいれよー!」

「ご飯を混ぜて雑炊にするっちゅーのも捨てがたいの」

「跡部は鍋自体あまりしないからわかっていない確率98%だな」

「うるせえよ」



芥川と仁王の発言に首を傾げていたのが柳にバレ、若干照れた表情を浮かべながら大人しく鍋の中をつつき始める跡部。普段ならからかいの種になるが、食に夢中な今の彼らにそれは眼中に無い。凄まじい勢いで消えて行く料理を見ながらある者は呆れたり、またある者は楽しそうにしていた。



「なんつーか、楽しい奴らだな」



そんな彼らの様子を見て、優は思わずそう呟く。普段1人で食事をとる泉と彼にとっては実に慣れない光景だが、2人の表情はいつもに増して穏やかだった。


「ゲット!」

「ちょっと切原!それ私の陣地にあった豆腐なんだけど!」

「ジャッカル、肉よこせぃ」

「自分のハンバーグあるだろ!?」

「うるさいですね、食事中くらい静かにして下さいよ」

「まぁ堅いことは言わずに楽しもうよ日吉!あ、泉先輩ハンバーグすっごい美味いです!なんていうか先輩の愛を感じるっていうか、あ、勿論俺の愛も充分に返しますから!」

「お前重傷だろ、ってかめんどくせぇ」



日吉を止めに入ったはずが結果本人が暴走してしまい、間近で初めてそれを見た切原がドン引きしたように彼の頭を叩く。氷帝は慣れているので何も反応していないが、立海の間に乾いた空気が漂っていた。



「随分直球だね」

「今に始まったことじゃねえよ」

「やっぱり部長の背中を見て育つとあぁなるのかぁ。俺も赤也の教育に気を付けなくちゃ」

「おい幸村それどういう意味だ」



察した両校の部長同志が話を始めるが、こちらも和気藹々という風にはいかなさそうだった。

しかしそれでも、食も進めば会話も進む。いつまで経っても笑いの絶えない賑やかな光景を見ながら、優は満足げにしていた。



「安心しましたか?」



そんな優に話しかけたのは香月だ。



「良い奴らだってのは知ってたからな。本当に泉が笑えてる環境なんだなってのを改めて思うと嬉しくてよ」

「結構溺愛してるんですね」

「本物の妹みたいなもんだからなぁ。これからもあいつの事よろしく」

「任せて下さい」



頼りある返事を聞いてから再び箸を進める。そんな風にしばらく学校生活での泉の様子について話していると、次第に話は恋愛の事へ逸れて行った。



「彼氏もこん中からだったら大歓迎なんだけどな」

「どうでしょうかね。多分まだ先になりますよ」

「だよな。あいつ恋愛不器用だし」

「しかも鈍感ですからね」



視線を移せば、周りに負けないようにとハンバーグを食べている泉が、その頬の膨らみをハムスターのようだとからかわれ拗ねていた。どんな時も彼らの中心で幸せそうに笑っている彼女を見て、優は嬉しいような複雑なような、完全な親気分になる。



「泉離れも近いかもしれないですね、優さん」

「今なら巣立ってく雛を見守る親鳥の気持ちがよーく分かるわ」
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