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「あれー?包丁どこッスかー?」

「あ、赤也君、座っててもいいんだよ?」

「赤也、俺からも頼む。お前は座っててくれ」



俺と泉が真剣な顔でそう言えば赤也は渋々リビングに戻って行った。その後ろ姿を見て泉と目を合わせて苦笑する。

それにしても、と改めて周りを見渡し、見慣れない頭の奴らをまじまじと観察してみる。どうやらスーパーでたまたま会った他校の奴ららしいが、これもまた難癖がありそうな奴らばっかりで泉お前平凡に過ごしたいんじゃなかったっけ?とさっき思わず聞いてしまったのはまだ記憶に新しい。だって帰りを待ってたらいきなりこんな奴らが来たんだもん、そりゃびっくりするだろ。

まぁでも泉が楽しそうだから良いか、とそれで全てを丸く収めてしまう所が我ながら親馬鹿だとは思う。なんにせよ、俺は早く泉の口から出る名前No.1の“ケイゴ”に会ってみたかった。氷帝陣はまだ部活が終わってないからこの場にはいないが、ケイゴ以外の奴らもまた個性的な奴らばかりだそうだ。話を聞いてる時にお前それ気付いてやらないのどうなんだ?とツッコミたくなる事もしばしばあるが、それもこれも会ってみない限りは何とも言えない。

と、話が長くなった。



「調味料は何処にある?」

「そこの引き出しだよ。ごめん柳君ついでに胡椒も取ってー」

「えーっと、精市だったっけ?悪いけどしゃもじ取ってくれるか」

「はい、どうぞ」



精市からしゃもじを受け取って、ホカホカ炊きたてのご飯を混ぜる。見ての通り今は鍋とハンバーグを分担して作ってる真っ最中だ。若干個性的過ぎるのは否めないが、普通にしてる分には立海陣も良い奴らばっかでどれが婿候補かなーなんて勝手に考えてみる。すると泉の親友である香月が「変な事考えてません?」と怪しい物を見る目つきで見て来たから、それには軽く笑ってごまかしておいた。



「優兄ボーッとしない!」

「口うるさい姑だなー」

「カリカリしてちゃお肌に悪いぜよ」

「雅治まで悪ノリしないでよ」

「仁王君、女性に失礼ですよ」

「冗談じゃ」



無駄な考え事ばかりしているのを泉にも見抜かれたので、そろそろ集中するかと料理に意識を切り替える。氷帝、早く来ねえかなぁ。



***



「泉さん、携帯鳴ってるッスよ!」



リビングのソファに大人しく座ってテレビを見ていた赤也君は、トタトタと小走りで来て携帯を手渡してくれた。ちょうど挽き肉をこねていて手がベタベタだったから、急いで手を洗いお礼を言ってからそれを受け取る。画面を確認してみると、そこには景吾の名前が表示されていた。


「もしもし?」

「今終わったが何か買ってく物」

「貴様何をやっとるんだこのたわけが!」

「悪いつってんだろぃ!んなカッカすんじゃねえよ」



話の途中で真田君とブン太の喧嘩が響き渡り、電話口の景吾の口調が一気に不機嫌になる。そりゃ気付くよねと思いながら立海の皆が合流した経緯を説明すると、かなり渋々だけど一応納得してくれた。それから本題に戻って、もう一度「何か買って行くものはあるか」と聞かれる。



「じゃあデザートお願いしよっかな」

「わかった、後30分程度で着く」

「待ってまーす」



呆れ声ではあったけどまぁ一安心という事で、電話を切ってからまたハンバーグに取り掛かろうとエプロンを締め直す。すると、不意に隣から精市が話しかけてきた。



「跡部かい?」

「うん」

「あいつらいつ来んの?」

「後30分くらいだって。デザート買ってきてって頼んじゃった」

「跡部なら超高級品買ってきそうだな」



それにブン太とジャッカル君も加わり、ジャッカル君の発言に皆頷いてキッチンは和やかな雰囲気に包まれる。そんな束の間の休憩をした所で、さぁ張り切って完成させますか!



***



「泉が風邪引いた日以来やな」

「ありゃ全員必死すぎたぜ。まさに激ダサ」

「見てる方は呆れましたよ」

「とかいって、日吉も心配してたじゃない」



お目当てのデザートを買い終え、氷帝陣は予定通り泉の家に向かって歩いている。日吉は図星をついてきた滝をキッと睨みつけるが、そんなものが彼に効くはずがなく相変わらず涼しい笑顔を返した。



「お前ら騒いでんじゃねぇぞ」

「静かな住宅街ですね!清楚な先輩にぴったりです!」

「長太郎、それ前も言ってたC」



ちなみに樺地は用事がある為来れないので、高級菓子店で買ったデザートの袋(またの名を跡部の荷物)は代わりに鳳が持っている。



「それにしても、まさか立海までいるなんてね。やるねー立海」

「あなどれへんわ」

「最悪な偶然ですね」

「でも丸井君に会えるのは超うれC!」

「ジローお前さっきからそればっかじゃん!」



話題の切り替わりが著しい彼らに跡部は苦笑しつつ、ようやく到着した泉のマンションのインターホンを鳴らした。「いらっしゃい!」彼女の明るい声と共に玄関のロックが解除され、ドアが開く。

そうして家の前まで来ると、そこには既に泉と優が彼らの事を待ち構えていた。玄関先で各々自己紹介を済ませてから、さあ入った入ったと言わんばかりに彼らを中に導く。



「流石泉の従兄弟さんだCー!超かっこEー!」

「どうやったらそんな背伸びるんですか!」



ギャーギャーと子供のように飛び付いて来た芥川と向日を見て優も満更でもなさそうに笑い、他のメンバーがすみませんと頭を下げながら興奮する2人を抑える。



「すみません騒がしくて」

「いいっていいって、元気なのが1番だ。で、お前が景吾ね」

「はい。今日はお世話になります」



列の最後尾に回り、エレベーターの中で鳳から受け取っておいた菓子を優に手渡す。口数は少ないが他の者とは明らかに違うその雰囲気に優は楽しそうに笑った後、彼の背中を手で押しながら自分も中へ入って行った。
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