3 「まさか1人なんてねー」 「あぁ、あの話かぁ」 授業合間の休憩時間、女子トイレにて用を済ませた2人。そこから教室までの道のりで、香月は再び昼休みの話題を口にした。 「今は好きな人とかいないの?」 テニス部がいる時には出さなかった話題も新たに出てきて、その問いかけに泉は「わかんない」とヘラッと笑いながら答える。勿論そんなあまりにも呆気からんとした返答に、香月は拍子抜けだったのか口を尖らせ拗ねたような表情を見せた。それを見た泉は苦笑しつつ、言葉を続ける。 「いや、いるかもしれないよ?でも自分じゃわかんないの。恋ってどういうものなのかハッキリ知らないし」 「気付いてないだけなのかもしれないし、本当にいないのかもしれないし、みたいな?」 「そうそう」 「曖昧だなー」 「許してー」 長年恋に触れてなかったり、本当の恋をしたことがないとなればそうなるのも当たり前だろう。 「ま、今は仕事が恋人かな」 「上手く言いくるめたわね!」 泉の心が何処にあるかは本人も自覚していない為何とも言えないが、とりあえず今はそんな結論で話を括らせた。 *** そうして時間は過ぎ、夜。大量のショップ袋と共に家に帰って来るなり、泉は心底疲れたといったようにリビングにへたり込んだ。 「すっげぇな、どうしたんだよこんなに」 今日は久しぶりに優も来ているようで、彼はその袋の量を見て驚いたように目を丸くした。仕事帰りの泉はお疲れのようで、ソファに寝転がるなり今にも寝てしまいそうな表情を浮かべている。 「んー、なんか連載で普段私が行く店に読者さんを案内する企画でさ。見てるうちにほしくなっちゃってつい」 「ほんっと衝動買いの癖抜けねぇな」 呆れながらも服の片付けを手伝う優。何だかんだ疲れた泉を気遣っているのだろう。 「優兄、今日仕事休みだったの?」 「あぁ、今日から3日間連休もらった」 「急にどうして?」 「ん?お前が普段話してる男子テニス部達と是非遊びたいなぁと思ってな」 「へー…って、え!?」 そこで何気なく問いかけた質問は、疲労で頭が回らない為反応するのに時差が生じたが、そうなんだとスルーするには聞き逃せない答えだった。即座にソファから腰を起こし目をパチパチと瞬かせてみるものの、優は変わらず笑顔である。 「という訳で、明日そいつらウチに連れてこい」 仕事でヘトヘトだったはずの泉から、大きな叫び声が出された。 *** 「っていう訳なんですけども」 翌日。学校に着いて教室に入るなり、まず昨日優兄に言われたことをとりあえずそのまま伝えてみた。何故か改まって敬語になっている自分が情けない。 あれから優兄には急すぎる!とか、皆も部活あるし都合合うかわかんないよ!、とか色々抗議してみたけど、結局優兄は一切聞く耳を持たずに寝てしまった。朝も私が出る頃はまだ寝てたし、結局こうやって皆を誘う道しか私には残されてなかった。 「何かお義父さんに挨拶しにいくみたいで緊張するー!」 「どんな例えよ」 迷惑な誘いだったら嫌だなぁと思ったけど、ジローのその浮かれ具合を見て少し安心する。良かったー、来れるんだ。 「俺達としては全く構わないが、良いのか?久々の休暇なんだろ?」 「皆と会いたいが為にとった休暇みたいなものだから、むしろ来てもらいたいかな」 「私も良いの?」 「うん!親友も紹介したいし勿論!でも皆部活だよね?」 私がそう言えば、香月は運良くオフのようでガッツポーズをしてみせたけど、後の2人は勿論そうじゃない。でもその辺りも上手く調整してくれるみたいで、景吾も皆に確認を取ってくれるらしいからそれで話はまとまった。 「ご飯何作ろうかなー」 「幸せそうな顔してやがる」 最初優兄が言い出した時はいきなり何だ、と思ったけど、なんだかんだ皆と過ごす時間が1番好きだから楽しみかも、なーんてコロッと考えを変えちゃう私は単純なのでしょうか。 |