ようやくあの白い制服を着た男共を撒く事が出来て、息を整える為に人気の無い公園に入る。

自分の中では、泉ちゃんにあの花をプレゼントした事でもう全部終わらせたつもりだった。隙があるなら泉ちゃんとずっと一緒に居たいのは山々だけど、しつこいあいつらがそれを許すはずも無い。僕と泉ちゃんがまさかこんな酷な運命にあった事は信じたくないけど、今は身を引く時なのだと苦渋を舐める思いで自分を納得させた。まるでロミオとジュリエットのようだ。悲しさと苛立ちが入り混じって、唇をギリギリと噛み締める。

しかしその時、急に走ったせいか足の古傷がズキズキと痛み出した。唇からは血が流れ足は自由が効かなくなり、泉ちゃんが傍に居ないだけでこんなにも脆くなった自分を嘲笑する。



「泉、ちゃん」



いや、やっぱり駄目だ。僕と泉ちゃんが引き裂かれるなんて甚だおかしすぎる。あいつらは話せば分かるという相手ではないから、それならやっぱりどうにかして泉ちゃんと2人になってこれからのお互いの未来を話してあいつらが居る手前言えなかったであろう僕への本音もちゃんと確かめてどうせならそのまま2人で何処か遠くへ行っても良いし、



「おい」



ねえ泉ちゃん、君だって僕と同じ気持ちだろ。恥ずかしいから言えなかっただけだろ。あの倉庫での行為の続きもしたいだろ。これからも僕と一緒に居たいだろ。

そうに違いないのに跡部景吾、何故お前はいつも僕達の邪魔をするんだ。



***



「滝先輩からでした。森林公園の物陰にいるそうです」



ものの15秒ほどで通話を終了させた日吉は、未だに手を繋いだまま泉に振り返った。滝から着信が来た時点である程度予想出来ていたが、実際にそれを聞くと心臓がうるさくなるのを止められない。日吉の方も、最初は居場所が突き止められたのならすぐにでも向かおうと思ったが、様子が変な彼女を見て一度足を止める。



「どうかしましたか?」

「あ、ごめんごめん」



やけに明るい口調なのが逆に怪しく、もう片方の手も取って真正面から向き合う。



「ちゃんと言って下さい」



次は疑問では無く肯定で言うと、元より情けなかった泉の目は更に揺らいだ。何も言わなくても分かりあえる仲だったら苦労はしないが、そんな関係はすぐに築けるものではない。もっとも、自分と同じ時期に知り合ったはずのあの部長は出来ているようだが。

なんていう私情が挟まった所で、日吉は一度目を閉じそれについて考えるのを止めた。しばらくすると両手に力がこもったので、それを合図にまた開ける。



「ほんのちょっとだけ待って欲しい」



―――目の前で俯いている泉を見て、ようやくそこで彼女の気持ちを理解した。此処までさせなければ気付けなかった自分を恥じ、せめてその気持ちが少しでも無くなるようにと華奢な体をきつく引き寄せる。一瞬驚いたように肩が跳ねて、次第に下りて。ほんのちょっとと言われた手前それは束の間だったが、体を離した時にはもう幾分か晴れた表情になっていた。



「行きましょう」

「うん、行こう」



自然に離れた手は、もしかしたら泉の「もう大丈夫」という意思表示なのかもしれない。だから本来は喜んでやるべきなのだろうが、まさかほんの少しでも名残惜しく感じてしまった事を、日吉は自分でも認めたくないかのように掻き消した。
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