「やっと来たか!」

「待たせたな」



集合をかけた張本人である景吾が部室に現れたのは、皆が揃ってから約30分後だった。言葉に苛立ちが含まれている宍戸君には片手を挙げて、他にも遅い遅いと文句を言う向日君やジローにはバンッ!と何かを机に叩きつける事で黙らせる。



「成程、地図ね」



ハギの言う通り、その何かというのは地図だった。何処までの道のりが記載されてるかはもう言葉に出さなくてもわかる。



「こんなん何処から持って来たんや?」

「生徒会室にある全校生徒分のフロッピーからデータ引っ張って来た」

「バレても知りませんよ」

「バレるかよ」



私達を先に此処に来させて、自分は生徒会室に行ってたんだ。放課後教室を出る時に言われた「先行ってろ」の意味が今ようやくわかった。

コピーされた地図は中々詳しく書かれていて、目的地である葛西君の家は既に赤丸で囲ってある。宍戸君、向日君、ジロー、鳳君は目的地周辺だけを確認するとすぐに部室から出て行って、それ以外の皆は各々頭に叩き込むなり、携帯で写真を撮るなりしてからいずれも走って行った。



「あいつら何の計画も無いまま行くとか猿かよ」

「侑士とハギまで行っちゃったね」

「でも、今回は誰かしら離れねぇから安心しろ」



最後に残った私達も、部室の鍵を締めてから校門に向かって歩き出す。正確に言えば、走り出そうとした所を景吾に「無理するな」と止められたのだ。皆と比べて自分に体力が無いのは自覚してるし、景吾もこうやって隣にいてくれるけど、それでも渋々いつもと同じ歩調に戻す。



「1番にとっ捕まえてやりたいが、お前の安全が保障されないんじゃ意味ねーよ」



…とかちょっと不貞腐れてみたのに、なんだか一気にむず痒くなった。だから私は景吾の方を見ずにコクリと一度頷いてから、やっぱりいつもよりは心持ち速く歩き始めた。



***



結局、自分達だけが歩いているという状況が落ち着かず途中から走り出した泉だが、彼女と跡部が先陣組の元に着いた時には既に息が切れていた。



「この辺で間違いないね」

「花屋、か」



滝が先程自身の携帯で撮った地図を確認し、辺りを見渡してから深く頷く。その時跡部の目に入ったのはこじんまりとしている花屋で、花屋自体に非は無いものの、そこからあの数々の花が排出されていたかもしれないと思うとやはり良い気はしなかった。しかし今はそれに気を取られている暇は無いので、露骨に目を逸らしてから再度彼らと目的地を見直す。

そうしていると、不意に携帯の着信音がその場に鳴り響いた。初期設定であるシンプルなそれは跡部のもので、こんな時に誰だと内心苛立ちつつディスプレイを見る。そこに表示された名前を見て彼は目を細めた後、仕方なしに通話ボタンを押した。



「跡部!」

「何だうるせぇな」



出るなり急に名前を叫ばれた事で響いたのか、更に顔を顰め耳から携帯を離す。



「それどころじゃないんだって!」



が、電話口から響く千石の様子は明らかにおかしかった。走っている最中なのかその声は安定しておらず、何をそんなに急いでいるのか率直に問いかける。



「葛西がいるんだよ!駅前通り沿い走ってるから速く来て!」



用件のみを告げられた直後に電話は切れ、その場に沈黙が振りかかる。千石の声が大きかった為内容は彼らにも聞こえていたのか、忍足は跡部から渡された地図を静かにポケットにしまった。



「千石が追い付けねぇくらい速いようには見えなかったけどな」

「でも、俺が襲われた時も見た目とは反して動きが速かったのを覚えています」

「油断は出来へんっちゅー事やな」



しかし、何はともあれ大よその居場所が突き止められたのなら話は早い。



「駅前通りは通常の道と裏道があって、そこからも更に道が別れてる。此処は手分けしよう」



滝の指示によりすぐにいくつかのペアが完成し、その者達から順に目的地に走り出して行く。最後に残ったのは泉、跡部、日吉、滝の4人で、泉には跡部が付くだろうと思った日吉は、滝に声をかけようと彼を見た。



「日吉、お前は泉とあっちから行け」



のだが、跡部が指示して来たのは自分の予想とは異なるものだった。一瞬何故、と戸惑いが生じたが、今此処で迷っている暇は無い。4人は一度目を合わせて頷き、すぐにそれぞれ散らばった。
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