日課のストレッチも今日はとてもじゃないけどする気分になれなくて、私はベッドの上で仰向けに寝っ転がった。ストレスだって肌に悪いしこの職業をやっている以上それを上手く発散しなければいけないのはわかってる。でも、今の私にはどうしようもない。

葛西君の現状をハギから聞いた時は、心の底から怒りと呆れが出た。自分の事だけならまだしも、大切な人達にも被害が及んでいるなら話は別だ。普段怒る事が無い分この怒りをどう静めればいいのか全く答えが出ず、ただただ釈然としない感情が胸に疼く。



「どうしてかなぁ」



悪い事をしてしまったら素直に謝る。そんな幼稚園児でも出来る事を18にもなって出来ないというのは、ちょっと考えられなかった。状況が状況なだけ踏ん切りをつけるのも難しいのは分かるけど、それなら尚更早く行動に移すべきだろう。考え出したらキリがない誤差に、いい加減痺れが来て思考を止めるように部屋の電気を消す。

自分の中にこんな感情があるなんて知らなかった。あまり綺麗とは言えない、むしろ汚いこの感情を、大切にしたいとは思わない。でも、大切な人達の為に汚くなれる勇気があるという事は、私にとって誇れる部分なのかもしれないと思った。



***



翌日。

挨拶もそこそこのまま自席に着くなり鞄を乱暴に置き、更には荒々しく席に座る泉を見て、他の3人はヒヤヒヤとした表情で彼女を再度見た。



「泉おはよー…?」

「うんおはよう。今日も良い天気だね」

「そんな棒読みで言われても同意出来ないんだけど」

「何があった。分かりやすすぎるぞ」



何をそんなに怒っているのか最初は理解出来なかったが、泉が鞄の中から取り出し物を見てようやく事を理解した。むしろ次は3人が顔を怒りに染める番だ。



「また靴箱に入ってたの。景吾、調べてもらえる?」



泉の手には一輪の花が収まっている。それはすなわち葛西からのメッセージを意味しており、確かにこんなものを朝から目にしてしまえば気分を害するのも無理は無いだろう。

そうして跡部はその花を見て思案した後、花言葉を思い出すなりすぐに席を立った。教室から出ようとする彼を一度引き止め、せめて花の名前だけでもと声をかける。



「ジャーマンアイリスだ」



本当に名前だけしか告げられなかったが、意味は自分達でも調べられるので早速携帯を取り出す。香月の携帯を泉とジローが覗き込む形で画面を見て、数秒後、検索結果が表示された。

3人の間に流れていた空気が、一瞬にして凍りつく。



「ねえ泉、あんたがあいつに触られた所って確か」



口に出すのは気が引けたので、香月の問いかけにはとんとん、と指でその箇所、胸を差す事で答える。そうして再度目を合わせた3人は担任が入って来たのと同時に教室を出て、葛西のクラスであるM組に向かった。

ジャーマンアイリス。別名、ドイツアヤメ・レインボーフラワー・ベアーデッドアイリス。アヤメ科のヨーロッパ原産で、状態は多年草。花言葉は、豊満。
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