そして決着へ

「退学かぁ」

「妥当でしょ」



あれから1週間が経って、香月の復帰と同時に葛西君の処分が掲示板に貼り出された。ストーカー行為に性犯罪未遂、これらは学校的にも勿論だけど社会的な問題も関わってくるから、結果を出すまでに実質1日もかからなかったみたいだ。



「ちなみに、お前に興味を持ち始めたきっかけはやはり校門で倒れた時だそうだ」



景吾の言葉にやっぱりあれが原因か、と当時の事を思い出す。ついこの間の事なのに随分昔のように感じるのは、その分内容が濃かったという事なんだろう。

傍らでひたすら葛西君の愚痴を言っているジローに、景吾と香月は便乗はせずともしっかりと同意はしている。私もそれを見て、やっぱり正直な所いなくなって良かったと心底思ってしまった。もしこの先彼の姿を校内で見かける事があったら、その時冷静でいられる自信は全く持ってない。だから、これで良かったんだ。



「何暗い顔してんだ、葛西の退学に安心してる自分に嫌気でもさしたか」



すると、急に怖い顔をした景吾が核心をついてきた。それに香月がちょっと、と声をかけるものの、言葉は続く。



「お前はもうちょっと自分を労われ」



すぐにはその言葉の意味を理解出来なかったけど、景吾の不安そうな目を見てようやく理解した。良かった良かったと安心するばかりじゃなく、今後にも生かせるようあえてこの役を買って出てくれているのだ。多分私は、色々と意識が足りなさすぎた。それを責める事はしないけどちゃんと叱ってくれた景吾に、一度頷いてから笑顔を向ける。



「にしても久しぶりだねー4人揃うのー!」

「重いよジロー」



その途端空気を明るくして抱き着いて来たジローに、思わず体がよろけたけどなんとか踏ん張って体勢を立て直す。事件が解決したのもそうだけど、何よりも香月が戻って来てまた4人揃ったのが嬉しいのか、抱き着いてくる力は更に強くなった。



「おかえり、香月」

「いらっしゃいませ安西ー!」

「遅ぇんだよ」

「ん、ただいま」



***



「まぁ、これで終わらせるっちゅー事は無いやろ」

「当たり前だぜ」



時は昼休み、場所は屋上。彼らテニス部と泉、香月は輪になり昼食を食べているのだが、そこで忍足と向日は唐突に話を切り出した。他の者は同意するように頷いている中、1人状況が読めない泉は食べかけの卵焼きを一度弁当箱に戻す。



「俺の先輩にあんな事をした罪は重いです」

「いやお前のになったのは初耳だけどよ。確かに言ってやらねぇと気がすまねぇな」



言っている事は宍戸が指摘した通り滅茶苦茶だが、普段は温厚な鳳の顔も今は厳しい。とそこで彼らは一度ジローのイビキに気を取られたものの、すぐに軌道を修正して今後について話し始めた。



「この1週間、葛西は生徒指導の呼び出しも一切無視して自宅に引き籠ってるんだって。親が言っても出てこないみたいで、遅かれ早かれこんな状況いつまでも続きはしないだろうけど、それなら俺達が行くのもアリだよね」



笑顔を絶やさず言ってのけた滝には、それまで気張っていた彼らの表情も若干引き攣る。



「そうだね。それはいくらなんでも許せない」



しかし、彼の言葉に臆さず1番最初に返事をしたのは、意外な事に今まで聞き役に徹していた泉だった。食べる手はすっかり止まっており、いつになく無表情な彼女に全員が目を向ける。



「もし逃げるっていうなら、捕まえるまで追いかける」



その目には確かに、怒りの炎があった。

日常的に見せる事はあまり無いが、元来泉も彼らに引けを取らないくらい頑固なのは周知の事実だ。それが今爆発したのには勿論これまでの経緯が関係しており、もう引き返しのつかない所まで来ている。

その意気だ。隣にいる跡部が褒めるように泉の頭を叩き、周りも意を決す。和やかな雰囲気とは言い難いが、今度は自分が強くあろうとしている泉に彼らは絶対的な信頼を寄せていた。
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