「あ」



未だに忍足と行動を共にしている滝は、探している途中で前方にある人物達を捉えた。滝の視線を辿り忍足もそちらを向くと、そこには立ち尽くしている跡部と芥川の後ろ姿があった。しかし彼らは何故か微動すらしないので、不審に思った2人は話しかける為に駆け足で近寄る。



「どないしたん?跡部」

「ジロー、それ何」



愕然としている跡部に嫌な予感しかしない2人は、とりあえず各々に声をかける。



「泉の、携帯」



しかし返って来たのは到底望んでいない答えで、更にその傍には葛西の物と思われる男物の万年筆までもが落ちてある。つまりこれは、葛西と泉が接触してしまったという事を明らかにしていた。

滝はそれに気付くなり一目散に駆け出し、そして珍しく大声を上げた。その大声に跡部は我に返り、忍足も含め4人で再び走り出す。



「この棟はもう探し尽くした。となれば、あとは外や」



上靴なんて事は気にしないまま、4人は1階に着いた時点で窓から外に飛び出し、がむしゃらに、ただ泉だけを求めながら走り続けた。



***



目を覚ますと、まず最初に言い表しようのない息苦しさを感じた。徐々に意識を取り戻していくうちに気付いたのは、口はガムテープで塞がれていて両手は紐できつく縛られているという事。そして、



「おはよう、泉ちゃん!」



すぐ隣には、添い寝するように葛西君がいた。

本当なら大声を出して助けを呼びたいのに、この状態じゃそれは出来ない。だからせめてもの抵抗にと近寄ってくる葛西君から逃げる為必死にもがいていたら、呆気なくそのまま強い力で押し倒されてしまった。

どれだけ体に力を入れても男の人の力には敵わず、その間にもどんどんと葛西君は迫ってくる。嫌だ、何で、何で。



「何処にも行かせないからね」



視界が歪んで、澱んで、どうせならこのまま見えなくなってほしいと切に願う。でもその意とは反して、段々と露わになって行く自分の体がいやでも目に入った。ブレザーを脱がされて、ネクタイをとられて、Yシャツのボタンをプチプチと外される。いくら経験が無いとはいえ、これ以降の行為がわからない程鈍感じゃない。でも、どうあがいても葛西君の体重を振り解ける程の力を私は持ってなかった。



「ひとつになろうよ」



思わず身震いしてしまうくらいの低い笑い声と共に、それまで丁寧に外されていたボタンが一気に引き裂かれた。露わになった胸を両手で思いっきり鷲掴みにされて、その間に顔を埋められる。初めての事に羞恥心と恐怖心が入り混じって、もう何が何だかわからなくなってきた。

 もう、駄目だ。

肌に涎が流れる、気持ち悪い感触が伝わる。これ以上何も抵抗のしようがない。そう思い知らされると、諦めからなのかもがいていた足が自然に止まった。なのに、その分涙はどれだけ経っても止まる気配を見せない。



「全部見せてくれるよね」



背中のブラホックに手がまわると、いよいよ頭の中が真っ白になった。目を閉じると自然と皆の顔が浮かんで、なんだか死ぬ直前の走馬灯みたい───そう思った時だった。



「初めまして、泉ちゃん」



ドアが壊れたような大きな音と共に、乗っかっていた葛西君が何処かへ飛ばされた。彼と入れ替わるように視界に映ったのは優しい笑顔で、それにはなんとなく見覚えがある。



「安心しろ」

「あっくんやさしー!」

「殺すぞ」



意識が遠のいていく中、聞き慣れたものではないけど確かに安心する声が耳に入って来て、私はそのまま目を閉じた。
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