凄まじいスピードで走り去っていた向日君の背中を見つめて、かれこれ30秒はその場に立ち尽くした。一言で言うと、唖然。いきなり現れて怒鳴られたと思ったら反省して、しまいには何か気に入られて友達になって。テニス部って何でこんなに不思議な人が多いんだろう、という素朴な疑問が頭に浮かぶ。



「…行こう」



もう良い。きっと初日に景吾達と関わった時点で私の平凡ライフは音を立てて崩れたんだ。…いや別に、仲良くなれて本当に良かったって思ってるから、結果オーライなんだけどね。

今日はテニス部に顔を出すのはやめて、香月の所だけに行こう。っていうか今後も顔を出さないでおこう。ジローと向日君あたりが騒ぎそうだから。

そうして結局校外には行かずラグビー部に行く為に体育館に向かってると、窓の外からテニスボールの音が聞こえて、なぜか今はそれが無性に虚しく聞こえた。



***



「泉おはよー」

「おはよ、香月。景吾とジローも」

「あぁ」

「おっはよー!」



翌日。昨日はあれからラグビー部に顔を出した後は真っ直ぐ家に帰り、結局何の収穫も得られない1日だった。



「部活決めたか?」

「何か気に入ったところなくって…だからもうサポート部でいいかなって思って、昨日入部届け出してきたよ」



サポート部とは、家庭環境に理由があって部活に入れない人が入部を許されている部の事だ。よくよく考えれば、学校だけでも大変なのに部活と仕事を両立させるのはいくらなんでも無理なのだ。でもそれを理由にする事は出来ないから、表面上は1人暮らしだからというのを理由にしている。

活動内容は名前のままで、運動部だったらマネージャーだったり助っ人だったり、あらゆるサポートを頼まれる事があるらしい。文化部からの依頼はほとんどなく、まぁそうでなくとも私にわざわざ依頼する人もいないだろうから実質帰宅部のようなものだ。



「AーマネやってほしかったCー」

「ごめんね、色々大変なんだ」

「そうよ、我侭言うんじゃない」

「環境が環境だから仕方ねぇな」



そこでチャイムが鳴り、私達はそれぞれの席に着いた。
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