「何処にいんだよ!あの変態野郎も、朝倉も」



より早く葛西を見つ出す為に、俺達は途中から別行動を取り始めた。俺は宍戸さんと一緒に行動しているが、どれだけ走っても犯人はおろか先輩も一向に見つかる気配は無く、苛立ちと焦りは増していくばかりだ。

そんな状況に痺れを切らした宍戸さんは、悔しげな表情を浮かべながら壁を思いっ切り殴った。何度も壁を殴り続ける手は段々と赤くなってきて、使い物にならなくなる前にとその手を掴む。



「宍戸さん、行きましょう」



無意識に力が入っているのかその手は小刻みに震えていた。俺が言葉をかけるもののいつもとは真逆の、まるで鳳のような情けない顔を浮かべているのを見て、堪らず怒りが込み上げてくる。



「貴方がそんな状態でどうする!先輩を助けるのは俺達だ!」



まさか俺が宍戸さんに怒鳴るなんて、中学の時でも無かったのに。自分でも驚いたのだから宍戸さんも当たり前に目を丸くしていて、でも次第にそれは鋭くなり、意を決したように頷いた。

あたりめーだ。一言だけ呟いた宍戸さんは自分の手から俺の手を離すと、さっきより何倍も速いスピードでまた走り始めた。情けないと思ったのはほんの一瞬で、再びいつも以上に大きくなった背中を見て俺も速度を上げる。追いかけたくなる背中というのはこういう事を言うのだろうが、それを認めるのは癪なので実際にはいつもの口癖のみを言っておいた。



***



「滝、そっちおったか?」

「いや」



駆け出した方向が一緒だった忍足とそのまま行動を共にしているが、注意深く1つ1つの教室を見ても手応えは無い。俺達は他の奴らよりは冷静にいれていると思うけど、それでもここまで来るといい加減気が気でなかった。



「マンモス校も欠点だらけやな、こういう状況に陥ると」



自嘲めいた忍足の言葉に頷いて、まるで俺達を馬鹿にするかのように鳴り始めたチャイムに顔を上げる。同時に生徒達も教室から出て来て、最悪なタイミングに苦虫を噛み潰したような顔になる。



「何で俺達、こんな必死になってるのかな」



今何が起こっているのか知らない生徒達は、授業から解放された事で至極リラックスしながら雑談を交わしている。そんな様子を見てるとどうにも自分達が知らない世界にポンと放り込まれたような感覚になり、気が付くと口からはその質問が出ていた。



「そら、大好きやからちゃうの」



当たり前のように言ってのけた忍足が意外で、ついこいつに視線を送る。小説が好きな忍足は普段からあれこれと思想を語るのが好きで、いつも決まってジローや岳人からは「話が長い」と飽きられていた。なのにそんな忍足が、まるでその2人のように単純な理屈を言っている。

結局俺がそれに返事をする事はなかったけど、走っている途中ずっと忍足の言葉が頭をぐるぐると回っていた。大好きだから。もし本当にそれだけの理由で動いているのならば、俺達は傍から見ると相当滑稽に違いない。でも、あの子の為にここまで必死になれる自分は存外無碍に出来ず、あぁやっぱり滑稽なんだなと自覚した。



***



「泉ー!!」

「うるさいぞ向日!」



授業中にも関わらず大声を出している俺を、教師達は勿論ドアを開けて注意してくる。中には待て!と引き止める奴もいたけど、俺達はそれを当たり前に無視して駆け回っていた。

でも、そこでふと後ろを振り向いた時にちょっと無視するには難しいモンが目に入る。だから俺は急ブレーキをかけたように足を止め、同じく気付いて困った顔を浮かべている樺地と目を合わせた。



「どうしたんだよ、お前」



走るスピードは変わらなかったにしても、泣いている後輩を無視する程俺も腐っちゃいない。上がった息を抑える為に胸をドンドン叩いてから、俺はもう一度鳳に「どうした?」問いかけた。



「すみません。さっき泉先輩にもう大丈夫だとか言った癖に、いざこういう状況になるとやっぱり不安で」



確かに、いつまで経っても葛西と泉が見つからないこの状況は俺達にとって結構きつかった。口には出してないけど樺地だって絶対思ってるはずだ。俺なんか、偉そうにどうしたとか聞いてる割に多分こいつらより心臓上がってるし、安心とは程遠い位置に自分達がいるのもちゃんと自覚してる。

でも多分、鳳は俺と樺地よりも違う意味で色んな心配をしてるんだろう。その辺は泉を恋愛対象として見てない俺達では共感出来ないけど、だからって分からないっつー訳でも無い。



「俺達の中でこの状況を不安に思わねえ奴なんている訳ねーじゃん、侑士とかだってただ意地張ってるだけだぜ」

「でも」

「でも、その意地が今は必要なんだよ」



自分もそう思います。いつもよりはっきりとした口調で同意してきた樺地に、一発背中を叩いてやる。鳳には三発くらいいれてやった。するといい加減決心がついたのか、ゴシゴシと袖で涙を拭いてから真っ直ぐ俺を見下ろして来た。見下ろさなきゃ完璧なのにこんにゃろう。



「行きましょう!」



まぁそこは、この意地で見逃してやるよ。
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