「決まりだな」

「うん」



話を聞き終えた瞬間、景吾とジローはすぐさま教室から飛び出して行った。そして景吾は、私の物とすり替えられていた犯人―――葛西君の眼鏡を、走っている途中窓から投げ捨てた。

2人が必死になって動き出してくれたというのに、当の私は気が動転して未だに此処から動けていない。そんな私を見て彼女、篠崎さんは、不安そうな表情で私の肩に手を置いた。



「大丈夫?」

「うん、なんか一気に事が進んだからびっくりしちゃって。ごめんね篠崎さん、色々不快な思いさせちゃって」



とりあえず今言える事を言えば、次は篠崎さんの表情が曇る。



「むしろ私の方こそごめんなさい。私、関わったら自分も巻き込まれると思って逃げてたの。私がさっさと言ってれば、もっと早く解決してたのに」



関係の無い彼女を巻き込んでしまったのは私の方なのに、そんな事を言われるとどうにも居た堪れない。でも私がそれを言う前の彼女の方から「それに」と再び話を切り出され、タイミングを逃し結局聞き役に回る。



「私、きっとどこかで貴方に嫉妬してた」

「嫉妬?」

「実は私前に忍足君にフラれてるの。大事な人が他にいるからって」



そこで侑士の名前が出て来たものの、やはり話の脈絡が読めない私は首を傾げるばかりだ。彼女はそんな私を見て苦笑したかと思うと、ようやく晴れた顔で歯を出して笑ってくれた。



「また話しかけてもいい?」

「勿論だよ。むしろ嬉しい」



事が終わりに向かっているという安心感からか、久々に心の底からの笑顔が浮かぶ。その時廊下の奥からバタバタと忙しない音が聞こえたのでそっちを向くと、全力で走っている皆の姿があった。



「朝倉!跡部から連絡来たぜ!」

「教室にはいなかっんだってよ。だから俺ら手分けして探してくる!」

「もう大丈夫ですからね!」

「でも油断はしないで下さいよ」

「これで終わりだから」

「ウス」



宍戸君と向日君の頼もしい言葉に続き、皆も各々声をかけてくれてからまた去って行く。その中には勿論復活した鳳君の姿もあって、彼はいつもとは違う、凛とした笑顔を私に向けてくれた後に、彼らの後を追って行った。



「自分、あの時の子やねんな。協力してくれてありがとさん」



侑士だけは最後まで残って篠崎さんにそうお礼を言う。彼女はそれに感激したように目を瞠ったかと思うと、少しだけ寂しそうに微笑んで、私には聞こえない声量で侑士に何かを伝えた。それを聞こうとするのは流石に野暮にも程があるので、2人の間を邪魔しないよう若干遠ざかる。

そうして侑士は彼女の言葉に頷いて、また皆と同じように走り出して行った。



「私も一緒に探すね!」

「私も、と」



それを見て私達も行こうとした時、ポケットの中にある携帯が振動した。相手は香月だ。なので篠崎さんに先に行ってもらうよう伝え、自分は階段の方へ移動してから通話ボタンを押す。



「景吾から連絡入ったわ、わかったんだってね」

「うん。これで最後だよ」

「まぁひとつ言えるのは、もうすぐ5限始まるんじゃないのって事よね」



電話先の香月の声は心なしか晴れていて、その冗談には私も声を上げて笑う。しばらくすると「私も抜け出して行こうかな」なんていう無茶が飛んで来たので、それにはしっかりと釘を刺しておいた。

最後にエールを貰ってやる気が出た所で通話を終了させ、先生に見つからないよう走り出す。自分の為にこんなにも必死になってくれる人達に、これからどんな恩返しをしていこうかと、頭の中はそれでいっぱいだった。
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