バンッ!と音を立てて教室に入る。



「ふがっ!?」

「…泉?」

「おはよう!」



基本何をしても起きないジローが大きな物音だけで起きたっていうのは、それすなわち中々寝付けていなかったという証拠だ。異常なまでのやる気を見せている私に目を向ける景吾も、その表情はいつもよりずっと堅い。



「絶対負けない。頑張るから」



昨日の香月との電話で、これまで抱えていた皆に申し訳ないという気持ちにようやくふんぎりがついた。勿論それを忘れた訳では無い。でも、今私が最重要に思わなければならないのはそんな事じゃ無いのだ。



「1番はお前の根気だ。その勢いを忘れるんじゃねぇぞ」

「泉の為なら何でも協力するからねー」



この問題の原因は、常日頃から注意力が足りないと言われ続けてきた私の性格にある。だからこの機会に、それを責めて自己嫌悪に陥るのでは無くて、今やれる事をやろうと決めた。

2人の言葉にお礼を言ってから席に着いて、このクラス内にも犯人がいるかもしれないという疑惑を胸に、ちょっとだけ周囲を観察するように見渡す。するとその瞬間ジローは不意に「あ!」と声を上げた。



「うおっ、やっべー!」



直後、サッカーボールが蛍光灯ギリギリの天井に直撃したのが目に入る。…なんか先行き不安過ぎない?そう思いながらちょっとうるさくなった心臓を抑え、ふうと一息吐く。



「おいお前ら、あぶねぇだろ」

「悪ぃ跡部!」

「っつーか何だあれ?」



天井に当たって落ちたサッカーボールは、テレビ台の横にある本棚に当たった。衝撃の弾みで本が出てきた事によって、それは必然的にただの木箱状態になり奥まで露わになる。そんな本棚を指差して、サッカーをしていたうちの1人の男子が口を開いた。

なんだろう、と目を凝らす。



「ちょっと、あれ」

「いい、俺が行く」



え、ちょっと、―――ちょっと待って。驚く私とジローを押しのけて、景吾は1人で本棚に歩み寄る。



「えっ、何でカメラ?」



景吾の手の中にあるそれは、紛れも無く小型のカメラだった。勿論他の人は何でこんな所にカメラがあるのか疑問に思うから、一瞬教室の空気が変なものになる。でもジローはそんな中気を逸らすように男子達をサッカーに誘い、私と景吾に一瞥をくれてから廊下へ出て行った。



「隠しカメラだな。これでこのクラス内に犯人はいないとわかったが、それにしてもここまでやるとは気持ち悪ぃ」

「本当にね、気持ち悪い」



まさかのまさかだ。これまででもう何度も気持ち悪い経験はしているけど、未だに全身に粟立った鳥肌は止まりそうにない。さっきの決意が一瞬にして砕かれそうになったのを保てているのは、隣に景吾がいてくれてるからだろう。



「おい、弱気な事考えてないだろうな」

「…ちょっとだけ」

「我慢はするなよ」



いつものようにクシャクシャと頭を撫でてくれる景吾の手が、なんだか今は特別に感じられる。普段から、言葉にはされなくても景吾が私を大事に思ってくれている事はわかっていた。でもなんだろう、このくすぐったい感覚。

そんな風に悶々と考えていたせいで、私達はまだカメラが回っている事をすっかりと忘れていた。
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