「いってー…」



パチリと目が開いて飛び上がるようにして起きた瞬間、頭を中心に全身に痛みが走った。それが幾分か和らいだ所で周りを見渡し、此処何処だよ。と思わず1人で呟く。

場所もそうだけど、とりあえず今何時だろうと携帯を開くと時刻は既に19時を回っていた。意識がはっきりして来るにつれて、なんとなく学校での出来事が思い出されて来て、眉間に皺が寄って行くのを自分でも感じる。とその時、真っ白な部屋の中に控えめのノックが響いた。



「安西さん、具合は大丈夫?」



入って来たのは中年で優しい感じの看護婦さんで、それを見てやっぱり此処は病院なんだと改めて確認する。



「まぁ一応は」

「そう、なら良かった。面会終了時間の今さっきまでお友達来てたんだけど、凄く心配してたわよ」

「…心配性な奴らなんですよ」



その言葉と同時に看護婦さんの視線がずれたから私もそっちを見ると、そこにはお菓子の山がどっさりと置かれていた。超高級菓子からコンビニで売ってるようなものまで、その種類だけで誰が買ったのか想像出来て、つい口元が緩みそうになるのを必死に堪える。



「良いお友達ね。でもそれだけじゃ栄養取れないから、今晩御飯持ってくるわね」

「お願いします」



穏やかな笑みを1つ残して行った看護婦さんを見届けてから、いそいそと携帯を手に取る。本来病院内は携帯禁止だと思うけど、まぁ個室だからそこは多目に見て頂きましょうという事で自己完結。

ん?メール28件不在着信50件。



「何だこれ」



滅多に見られない数字に独り言が出たのも気にせず、私はこの相手達が誰かを見る為に再び操作を始めた。伊達に女子高生やってないだけあってそのスピードは我ながら速い。

どうせウチの親達の事だから、命に別状が無いと知ったならば大した事は送ってこないだろう。「退院したら何食べる?」ほら、優しいっちゃ優しいけど論点はずれてる。よって返信は後回し。他にもテニス部の奴らやクラスメイトから色々来てたけど、まずは泉に返信をしたくて、私は1番最初に来ていたあの子からのメールを開いた。

 本当にごめんね。

たった一言だけ書かれたそのメールは、文面だけでもどんな表情をしているか分かるくらいに情けない。全くもう、と呆れ半分で溜息を吐いた私は、メールより電話の方が早いと思いすぐに泉の電話帳を引っ張り出してコールボタンを押した。



「もしもし」



10コール目でやっとか細い声が耳に入る。



「香月、あの」

「バーーーカ!!」



直後にドアの向こうから「静かにして下さい!」という声が聞こえたけど、そんな事は当たり前に関係無い。驚いて声を無くしている泉を無視し、私は次々と言葉を吐き出した。



「なんでずっと1人だった私があんたと今ずっと一緒にいるか、その理由分かる?」

「え、いや、わかんない」

「私にもわかんないっつーの!」

「え!?」

「でも仕方ないでしょ、離れたくないんだから」



それまで狼狽えていた泉が、私のその言葉でヒュウッと息を飲んだのが聞こえた。苛立ちで高ぶっていた感情が徐々に落ち着き、次第に耳に入って来たすすり泣きに目を閉じる。



「大事な事はきっと景吾がもう言ってくれたでしょう。その通りっていうか、むしろ私はあいつらよりも更にあんたの傍にいるからね」

「でもお医者さん、全治3週間だって」

「この状況でいらん事言うな」



きっと隣に泉が居たらデコピンしてるに違いないだろう。そんな光景まで簡単に想像出来て、私も泉も電話口で小さく笑う。



「香月、早く良くなってね。お見舞いも行くから。ちゃんと頑張るから」

「そうよ、あんな奴ぶっ殺しちゃえ!」

「もう安西さん、静かにって言ってるでしょ!携帯は違うフロアで使いなさい!それに病院でそんな事言っちゃいけません!」

「あ、ごめんなさい」



元気になった泉に安心してテンションが上がりすぎたのか、晩御飯を持った看護婦さんは怒りながら部屋に入って来た。泉はこのやり取りにクスクスと笑っていて、これならもう大丈夫だなと再確認し、また電話しようと約束してから電源ボタンを押す。

病院食は味気が無くてとてもじゃないけど3週間は耐えられない。そうなると必然的に間食が増えて、このお菓子の山も思いの外早く無くなりそうだ。でもまぁ、その前にあいつらがまた同じ分だけ持って来てくれるだろうから大丈夫か。そんな悠長な事を考えながら、ほうれん草のおひたしを口に運んだ。
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