迫り来る危険

最初予定していた展開とは違うものになったとしても、この平和な日常が崩れる事なんて無いと思っていた。まして、変装を完璧にしているつもりの自分にとって、それは未知と言っても良いくらい無縁だと思っていた。






「泉おはよー。あれ、あんた眼鏡変えた?幅でかくない?」



通学途中に後ろからかけられた聞き慣れた声に、そしてその言葉に思わず顔が綻ぶ。眼鏡のサイズが緩んだのは家を出る際に私自身も確かに感じた事で、勝手に小顔になったかなぁなんてはしゃいでいたのだ。だからその主旨を香月にも伝えれば、「それ以上小さくなってどうするの」と軽く頬を抓まれた。褒められてるはずなのにそんな気がしないのは何でだろう。まぁ細かい事はいっか。



「今日は早いんだね」

「なんっか気持ち悪い夢みてさ。内容は覚えてないんだけど。二度寝する気分にもなれなくて、こんな早く来ちゃった」

「いつも遅刻ギリギリなのは二度寝してるからなんだ」



今言った通り香月は朝は滅法弱いから、こんな風に一緒に登校出来る事はあまり無い。でも今日は早い理由が理由なだけに、あんまり良い事とは言えなさそうだ。

そうして話しているとあっという間に玄関に着き、そのままいつも通り靴箱に手をかける、と。あまりにも此処に入っているには不釣り合いな物が入っていたので、私はちょっとだけ後ずさって硬直した。それを不審に思った香月が隣から覗き込んで来て、同じように動きを止める。



「なんで花?」



そう、そこには何故か、一輪の花と共に手紙が添えられてあった。



「今時花言葉で告白?しかもこれってクリスマスの時とかに使われる花だよね、季節外れだなぁ」

「いやいや告白は無いでしょ」



それは勿論この容姿だからという意味も含まれているけど、そもそも私は香月やテニス部の皆以外とはあまり接点が無い。クラスメイトはあくまでもクラスメイトだし、今まで特定の誰かと話し込んだという記憶もやはり無い。それでも内容を確認してみない事には始まらないので、私は恐る恐る白い封筒の封を切った。

―――“君の秘密が知りたい”。

たった一行だけのその文章に、とてつもなく粘り気のある何かが込められている気がして、反射的に手から封筒が落ちる。



「兎に角、教室行こうか」



香月はそれをささっと拾うと、私の背中に手を置きながらゆっくりとした歩調で歩き始めた。普段は歩くのが速い香月が気遣ってくれている事にはすぐに気付いたもののお礼を言う余裕は無くて、一度コクリと頷いてから私も歩き出す。



「花と手紙だと?」

「しかもかなり気持ち悪いの。見てこれ」



そうして教室に着いて早速景吾とジローに手紙を見せると、案の定2人は気味が悪そうに顔を歪めた。いつもは楽しいはずのHR前が、今だけは棘のある雰囲気に包まれている。

何か思い当たる事はあるかと心配そうに問いかけて来た景吾に、ふるふると頭を振る。つい先日校門前で倒れてしまった時に見られたのが可能性的には1番高いにしても、ここまでの執着心を持たれる覚えはやっぱり無いのだ。



「私の心は燃えている」



しばらく黙っていると景吾は急にそんな事を呟き出して、私は勿論香月とジローも目が点になる。するとすぐにそれがこの花、ポインセチアの花言葉だと付け加えられ、よっぽど虫酸が走ったのか香月は景吾の手にあったポインセチアと手紙をそのままゴミ箱に投げ捨てた。



「厄介なのに目付けられて怖いだろうけど、私達がついてるから抱え込まないでよ」

「そうそう、1人が怖いなら俺何処でも着いて行くC!」

「とりあえず無理はするんじゃねえぞ」



未だに消えないもやもやが、3人の優しさでちょっとだけ和らぐ。

でも、なんだろう。嫌な予感がする。あまりこういう直感的なのには敏くないけどこの時ばかりはそう感じずにはいられず、無意識に向いたゴミ箱への視線はしばらく逸らす事が出来なかった。
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