未使用教室。持参したと思われるノートパソコンに、明かりもつけずに画面に食らいついてる1人の男子生徒がそこにはいた。



「朝倉、泉ちゃん」



髪は手入れを怠っているのがすぐにわかる程乱雑で、不揃いに切られた前髪は目にかかっており、油気が多く不潔感が漂っている。眼鏡の下の顔面はよく窺えないが、息の荒い大きな鼻、分厚い唇、脂肪の付いた顎に頬、吹き出物だらけの肌。まるで自分の体に何の興味もないような容姿だ。



「秘密を、教えてよ」



ひたすらパソコンで何かをする彼―――画面には泉の写真が何枚も映し出されていた。

何かが、迫り来ようとしていた。



***



「む、無理しなくていいから!」

「お前寝てろって言っただろうが!悪化したらどうするんだ!」

「台所の汚さが悪化するよ!っ、あぁー…」

「大丈夫か!?」

「その前に火止めてー!」



本来ならば安静にするべきなのだが、泉は跡部が心配でそれどころでは無かった。

泉の家に着くと、まず最初に跡部は彼女に寝るように促し自分は台所へ向かった。しかし好奇心からか、ラフな服装に着替えた彼女は寝るように言われたにも関わらず台所に様子を見に行った。するとそこには何かを作っている跡部の姿があり、彼のその姿に驚きつつも感激したのか、泉はその後ろ姿をしばらく眺めていた。

のだが。事の成り行きは想像するに容易いだろう。



「後で香月も来るから大丈夫だよー」

「立ち眩みの原因には貧血も含まれてる。栄養摂んなくてどうすんだ、食わなきゃ治るもんも治らねぇぞ」

「そうだけど、景吾料理した事ある?」



そう問えば、跡部は逃げるように目を逸らし黙り込んだ。なんとも素直な反応に泉は少し微笑み、宥めるように言葉を続ける。



「気持ちだけで嬉しいから、ありがとうね」

「…よし」



そうしてようやく大人しくなったと思った次の瞬間、跡部は何を思い立ったか泉を抱き上げそのままベッドに直行した。焦る彼女に対し彼は静かに寝かせ、毛布をかけ、それでもきょとんとしている彼女の頭を撫で。最後に優しい笑みを向けて、話しかけた。



「すぐ戻ってくるから、大人しく寝てろ」

「あ、う、うん」



唐突な跡部の行動に泉はしばらく彼が出て行ったドアを見つめていたが、この言い表しようのない疑問に答えてくれる者は勿論いない。そうすると室内には静寂が続き、落ち着いてみると気怠さと共に睡魔が襲って来たのか、数分後には規則正しい寝息がその場に響き渡った。



「…何でもういるんだよ」

「誰かさんが変な事してないか心配でねー」



それから跡部がリビングに戻ると、そこにはスペアキーで入って来たのか意地の悪い笑みを浮かべている香月が既にいた。妙に核心を得た茶化しに「馬鹿か」と答えるものの、自分では何の役にも立てない事を思い知ったので大人しく彼女の指示に従い料理を始める。



「まぁ、あんたに限って確かにそんな馬鹿はしないか」

「当たり前だろ」

「ここまで気付かれないのも酷だけどね」



これまた図星である。普段は自分に成せない事など何も無いが、どうもこの展開については全く先を読めず、跡部はそんな自分に若干項垂れながら食材を切る速度を速めた。結果慣れない事に指を切ってしまい、香月に嘲笑されたのは流石に気の毒すぎるかもしれない。
 3/5 

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