「せんぱぁぁあい!!死なないで下さいー!」

「長太郎うるせー。おい朝倉、無理すんじゃねーぞ?」

「大丈夫かいな?」

「ほんとだぜ!安静にしてろよ!」

「ウス」



香月の呆れた声と共に入って来たのはお馴染のメンバーで、過剰な鳳君が心配なところだけど、来てくれたという優しさが素直に嬉しく一気に表情が和らぐ。そんな私を見てハギは「無理は禁物だよ」と念を押すように言って来たので、それには大人しく頷いておいた。



「私達もだけど、こいつら毎時間来てたのよ」

「そんで中々起きねぇから長太郎の奴、最初はまだ落ち着いてたのに今じゃこのザマだ」



宍戸君の言葉を遮って鳳君はその大きな体でひっしと抱き着いてきて、ちょっと苦しいよという意を込め背中を叩いてみる。勿論効くはずはない。それよりも風邪うつるからやめた方が良いと思うんだけどなぁ、言った所でこれもまた聞くはずがないのは目に見えてるにしても。



「長太郎ずるいCー!」

「お前、泉病人なんだぞー!」

「岳人、自分も同じ事しとるやないかい」



侑士の言う通り、いつもの調子で2人からも抱き着かれいよいよ息が詰まりそうになった。その様子を見兼ねた日吉君が3人まとめて引き剥がしてくれて、ようやく一息吐ける。



「スポーツマンは健康第一だよ」

「泉、そろそろ行くぞ」

「うん。日吉君ありがとね」

「いえ。…それより言っておいた方がいいかもしれない事があります」



ようやく状況が落ち着いたので景吾に引っ張られながらベッドを降りると、不意に日吉君は気まずそうに目を伏せながらそう言った。その意味深な言葉に、皆の視線が日吉君に集中する。



「倒れた時に眼鏡が外れてしまったんです。急いで駆け寄って隠しましたが、時間帯は早いにしても登校時間には変わりなかったので、もしかしたら誰かに見られていたかもしれません」



思ってもいなかった衝撃に、私も含めて皆もすっかり静まり返ってしまった。心の中で明らかに動揺していると、次に気まずい沈黙を破るように侑士が口を開く。



「んま、倒れてたんやし顔も見えずらいやろ。そのごっつ綺麗な足も長いスカートで隠れとるし」

「黙れ変態。それに、見えたとしても倒れたんだから目瞑ってた訳だし。そんな簡単にわかんないわよ」

「まさか学校で大人しいお前がモデルだとは、誰も思わねぇだろ」



皆の大丈夫だという声が、不安を少しずつ消していく。



「…うん。バレてなければいいけど」

「ま、仮にバレちゃってて噂を流されたとしても俺達がついてるからね、安心しなよ」



完全に安心したとは言えないものの、ハギの優しさが決定打となり私の顔には再び笑顔が浮かんだ。それを見て皆もほっとしてくれたようなので、今はこれでいいんだと納得しておく事にする。



「じゃあ景吾、泉をよろしく。泉はお大事にね。今日ご飯作りに行ってあげるからそれまで寝てなさい。はい、アンタらは教室戻るわよー」



香月の招集にはーい!と元気な返事をした皆は、そのままぞろぞろと保健室から出て行った。「幼稚園児みたいだね」と呟けば景吾も同意するように笑って、そうして私も帰り支度をしようと鞄の中身を整え始める。立っていると少し体がフラフラして不安定になるのを察してくれた景吾は、背後に回って両肩を支えてくれた。



「ごめん、ありがとう景、」



だからお礼を言う為に体を後ろに向かせようとすると、その前に思いっきり抱き締められた。急な事に思わず言葉が詰まる。

心配かけんじゃねぇよ馬鹿野郎。

いつもとは明らかに違う、とても弱々しい声で耳元で呟いて来た景吾は、そのまま私の首元に顔を埋めてぎゅうぎゅうと力を込めて来た。ごめん、ありがとう、と、同じ言葉をもう一度繰り返す。本当はもっと言いたかったのに、うるさい心臓のせいでそれは叶わなかった。…不意打ちには弱いみたいだ。
 2/5 

bkm main home
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -