正直、朝倉がモデルのMiuではないかという予測はだいぶ前から立てていた。合宿中に間近で見た整いすぎている顔、異様に過保護な跡部やその他の氷帝部員。その全てが何かにリンクしていると俺は勘付いた。

更にそれにヒントを与えてくれたのは、ブン太と赤也の待ち受けだったことも忘れてはいけない。あの2人は以前Miuにインタビューされて以来、すっかりファンになったようだったからな。



「じゃあ、思いっきりはじけちゃってー!」



それまでの独特の雰囲気がまた一変し、言葉通りはじけるような笑顔が朝倉の顔に浮かぶ。あぁもコロコロ雰囲気や表情を変えられることも勿論だが、それ以前に何故か彼女にはとても惹かれるものがあった。



「かわえぇのう」

「スルーしていたがそれで通算32回目だぞ、仁王」



そんな中うるさい仁王には厭味の1つも言ってやりたくなるが、今のこいつがそれをまともに受け取るはずもない。

結局朝倉が次の衣装に変える為に一度スタジオを離れるまで、奴の口が塞がることは無かった。合計57回、いい加減重症だということに気付けと声を大にして言いたい。



***



「ちょっと婚姻届もらってくるきに」

「寝言は寝てから言え」



もう一度メイクルームに戻ると、キャリアウーマンという設定から黒いスーツがそこには用意されていた。

その衣装の雰囲気に合わせる為、髪型はひとまとめにアップして更に黒ぶち眼鏡をかける。キャリアウーマンが膝上10センチのスカートなんてあんまりはかないと思うけど、まぁそこはご愛嬌ってことで。ちなみに足元は8センチのヒールを着用している。

そして、計算高そうで頭の良い女性がタイプという雅治は、どうやらこの格好がドツボらしい。いつもの彼らしからぬ饒舌さに珍しいなぁと思いつつ、2人の会話に笑う。



「計算高い女は俺も好きだぞ」

「2人共経験豊富そうだもんねぇ。私がこんなの着ても見かけ騙しだよ」

「ちょおっと聞き捨てならないのう、誰が豊富そうだって?」



失言だったのか、詰め寄るように顔を覗き込んで来た雅治から離れ柳君の背中に隠れる。そりゃそうか、遠まわしにチャラいって言ってるようなもんだもんな。



「お前は2人共、と言ったな。俺だって心外なんだが」

「う…ごめんなさい」

「冗談じゃ」



助けを求めた柳君にも開眼しながらそう言われ、思わずしゅんと項垂れる。でもすぐに2人分の大きな手が頭に乗って、その場には笑い声が響いた。

さぁて、最後の撮影気合入れていきますか。



***



「あ、そういえば」



撮影が終わってから、3人は近くの喫茶店に立ち寄った。ちなみに泉は行きと違い今はちゃんと変装している。撮影が終わったことで気が抜けたのか、リラックスした状態で他愛も無い事を話していた途中、彼女は何かを思い出したように2人に喋りかけた。



「私前雑誌の特集でブン太と赤也君にインタビューしたことあるんだよね。2人とも覚えててくれてるかな?」



泉が出した話題は、いつかの雑誌撮影のことだった。ふと唐突に思い出したことだったのだが、その質問に彼らは呆れたように笑いながら首を縦に振った。



「バッチリ覚えてるきに。もー鬱陶しくてしゃあなかったぜよ」

「その日は俺達全員にメールして来た挙句、今では携帯の待ち受けにまでしているぞ」

「…何か身近な人がそうやってしてること聞くと、少し照れるね」



さっきまでモデルの顔で写真を撮られていた癖に、終わった途端にこう来るとは少しズルい。そんな2人の心情を泉が悟れるはずもなく、なんの変化も無いまま話は続いた。



「事務所にも遊びに来てって言ったんだけど、きっと2人とも忙しいんだろうね」

「あー、それを聞いた幸村が何が何でも着いていく発言をしたから、多分中々行動にうつせんのじゃろ」

「同感だ」

「なるほど、精市が来るとなったら別の緊張感が出るなー」



それからは主に立海メンバーの話で盛り上がり、時刻が17時を回った所で3人は喫茶店から出た。陽は沈みかけで、オレンジ色の灯りが3人の顔を照らす。



「それじゃあまたね」

「気を付けて帰りんしゃい」

「またな」



柳と仁王は泉の背中が見えなくなるまで見送った後、お互い顔を合わせ苦笑し、そのまま何とも言えない気持ちを胸に抱きながら帰路に着いた。この日が2人にとって何らかのキッカケになったのは、言うまでもないだろう。
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