「おはようございまーす」



俺と参謀の要望を二つ返事で引き受けてくれた泉に連れられ、歩くこと約10分、スタジオに到着した。まさかこんな事になるとは予想外だったが、参謀の肯定せざるを得ない会話の持って行き方に感謝というべきか。

泉が周りのスタッフに挨拶をする中俺達も軽く会釈をし、そうして楽屋に入り、マネージャーらしき人の元に到着する。



「北野さん、友達来ましたー」

「まっ色男!」



急に来た俺達に嫌な顔1つせず、むしろ歓迎してくれとるその北野さんとやらに頬が緩む。でも北野さんはまた別の用事があるのか、そのまま忙しない様子で外に出て行った。



「リラックスしてってね。何か飲む?コーヒーとかあるけど」

「ならばコーヒーを頂こう、悪いな」

「俺も。ありがとさん」



泉も気を遣うてくれたんか、数分後、俺達の元に暖かいブラックコーヒーが出された。中々準備がええんじゃのう、と思いながら楽屋内を観察する。こんな所に入れる機会なんて滅多に無いなり、折角だから楽しまなきゃ損ぜよ。そう思っとるんは参謀も一緒なんか、早速ノートを取り出して何やら書き込んどった。



「砂糖とか好きに使ってね、ここにあるから。それじゃ私メイクしてくるね」

「あぁ、頑張ってきんしゃい」

「うん、ありがと。撮影現場も見に来てね」

「時間になったら行かせてもらおう」



俺達の答えに満足したらしい泉は、笑顔を1つ溢すとそのまま部屋を出ていった。



「…かわええのう」



ポツリと呟いた言葉は思ったよりも室内に響いて、直後柳のペンを書くスピードが上がったのが耳に入る。貴重なデータじゃ、精々書いときんしゃい、という余裕を装った内心はもはや意地でしかなかった。



「滅多に無い経験だからな、しかと観察させて貰おう」



とか建前言っちゃって。

それから泉の撮影が始まるまで他愛も無い話をし、数十分経つと北野さんが俺達を呼びに戻って来てくれた。だからそれに反応して、すぐにその場を後にする。



「Miuさん入りまーす!」

「よろしくお願いします!」



スタジオに着くと、泉は最初に元気にそう挨拶したのを区切りに、それからはまるで別人のように表情をガラッと変えた。煌びやかなセットもいつもより派手なメイクも、見慣れんっちゃ見慣れんけど、俺達の興味を引き付けるには充分じゃった。

…ある意味来んほうが良かったかもしれん。思わずそう思ってしまった事に、隣の参謀は当たり前に気付いてるんだろう。



「現役高校生とは思えないな」

「本当にプロなんじゃなぁ」



撮影が始まってから口を開くのに何分要ったか。俺達の目には、白のミニドレスに金髪のウィッグといった、まるで人形のような泉が映っとる。その様子に思わずたまらんのう、と言うと、すぐに親父臭いなどという失礼なツッコミが飛んで来た。お互い様っちゅーのに偉そうじゃのう。

そこで、それまで笑顔だった泉はカメラマンの指示により途端に無表情になった。顔立ちが綺麗すぎるせいか微動だにしない姿はまさしく人形で、俺達はどちらからともなく溜息を吐いた。



「恐ろしいくらいに綺麗じゃな」



コクリ、と参謀が小さく頷く。珍しくポーカーフェイスが乱れているその顔を見て笑ったのも束の間、俺も充分口が開いていたことに気付き、すぐに目を逸らした。直視し続けるには、ちょいと心臓がもたん。
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