「宍戸君はあれだね、包容力があるよね」 「あ?」 本当はこれ以上サボらせない為にも早く教室に返してあげるべきなんだろうけど、この居心地の良さにもうちょっと身を委ねていたくて私は宍戸君にあえて話しかけた。案の定不思議そうな顔で首を傾げられる。 「俺にそんなの言ってくる女見たことねーぞ」 「皆怖がって逃げてくもんね」 「…間違っちゃいねぇけど」 ポリポリと不服げに頭を掻く宍戸君。 「でも、怖いっていうよりもただ不器用なだけで、本当は凄く優しいよね」 そんな彼に面と向かってそう言うと、いよいよその顔は赤みを帯びてきた。こんな風に素直に反応してくれるところが凄く可愛いと思うのだけれど、そう言われることを彼は好まないから私もこれ以上は何も言わない。 「うるせーよ。」わしゃわしゃと犬にやるような手つきで頭を撫で回して来たそれは完全に照れ隠しで、私は大人しくされるがままになった。 「何やってんだお前ら」 「廊下で保健室の先生に会ったから、あんたの事聞いたわよー」 なんていう穏やかな雰囲気を壊すように、若干呆れ顔の景吾と香月が保健室に入ってきた。呆れに加え2人の表情は心なしか不満げで、少し嫌な予感がする。 「心配かけてごめんね、暑さにやられたみたい」 「無理するなっていっつも言ってるのに…」 「馬鹿野郎」 ほら、やっぱり怒られた。 「で、宍戸がわざわざ駆けつけてきたと」 「ちがっ…くねぇけどよ」 「授業を抜け出すとはな。単位なくなって部活出れないとかほざくなよ」 素直に謝ったら謝ったで次の標的は何故か宍戸君に向き、色々ごめんね宍戸君、と心の中で手を合わせる。 しばらく2人の言い合いは続いたけどそれも次第に薄れ、約15分後にようやく私達は保健室を後にした。ベッドから降りる時にさりげなく肩を貸してくれた景吾はそのまま私の手を掴んで歩き始めて、その気遣いにお礼を言えば手には更に力が込められた。優しいなぁ、やっぱり。 *** 「いいよーだ!皆して俺だけ仲間外れにしてー!」 そうして保健室から教室に戻ってくると、そこには自分のお弁当を抱えて不貞腐れているジローが待ち構えていた。どうやら1人置いてきぼり(にしたつもりはないんだけど)をくらったことが寂しかったらしく、私達の弁解にも聞く耳持たずだ。 「泉が倒れて保健室に行ってただけだ」 「だから拗ねんじゃないわよー」 「ほら、おいで?」 だからなだめるように私が腕を広げてそう言うと、ジローは馬鹿!と言いながらもやっと飛びついてきてくれた。なんか小学生みたいだなぁ、と思ったのは内緒だ。 「小学校低学年あたりで精神年齢止まってるわね」 「どう考えてもな」 隣で苦笑いする2人を見やりつつ、引っ付いてくるジローの背中をぽんぽんと叩く。この数ヵ月で随分子供相手もお手の物になった気がする。良いのか悪いのかで聞かれれば微妙なラインだけど、なんだかんだで甘やかしてしまうあたりきっと良い方なんだろうと勝手に思っておこう。 「ご飯にしよー!」 「はいはい」 「ジローには甘いんだな」 「人のこと言えないんじゃない?」 「…全員そんなもんか」 それを合図に体が軽くなり、今日は4人でお昼を食べる為に机を合わせる。何回も見慣れたはずの光景がやけに幸せに感じるのは、きっと気のせいではないだろう。 |