ガスッ、と嫌な音が響いて、その直後全身に痛みが回ってきた。それでようやくあぁ、私転んだんだと自覚して、相当感覚が鈍っていることに眉を顰める。



「うぅ…」



やっぱり体の異変は間違いなかったみたいだ。しかもよりによってこんな人目のつかない所で倒れるなんて、つくづくタイミングが悪いというかついていないというか。意識が朦朧としているせいでいやに冷静な自分に危機感を抱き、どうにかして立ち上がろうと思ったその時、



「大丈夫か!?」

「…あ、れ?」



最後に見えたのは、顔面が傷だらけの、見覚えのある顔だった。



***



「まぁ、外も暑いし陽射しも強いからね。この時期こういった症状がでてくる子なんて珍しくないから、心配することないわよ」



保健医の言葉にはぁ、と気の抜けた返事をすれば、情けないほどに肩が下がるのを感じた。

俺の座席からは、ちょうど森の茂みから朝倉の白い両足が出ているのが見えた。ピクとも動かないそれに動揺して慌てて駆けつければ、案の定そこにはほとんど意識が無い状態の泉が地面に横たわっていた。そんでこの異様に軽くて白い体をおぶって保健室までまた全力疾走して来た訳だが、今更ながら相当必死だったことに気付き1人で勝手に気恥ずかしくなる。



「息切らして大声で入って来た時は何かと思ったわ。もう安心した?」

「…おかげさまで」



半ばからかわれているのは自覚しているので、そっぽを向きながら俺も精一杯平然を装う。今更だと?なんとでも言いやがれ。

とそこで保健医は職員会議がどうたらとか言って、俺達2人を残して出て行った。まさか寝ている女と男を2人きりにするなんて、信用されているのか度胸が無いと思われているのか。多分両方だと信じたい。後者だけというのは流石に情けなさすぎる。

なんていう考えも去ることながら、2人きりになれば自然と俺の視線は朝倉に向いた。落ちかけている眼鏡が邪魔臭そうだったから起こさないようにそっと外し、初めて間近で見るその顔に柄にもなく息が詰まる。



「…本当お前は心臓に悪い事しやがって」



誰にも愚痴れないから、せめて地蔵の本人にでも。



「…ごめん」

「は!?」



そのつもりだったのに朝倉は不意に目をうっすらとあげると、気まずそうに布団を顔にかけながら謝ってきやがった。突然のことにまた大声が出て、やべこいつ病人だったと改め直し口を抑える。



「お前いつから起きてた?」

「今寝返りうった時意識微妙に戻って、宍戸君の声がしたから目覚めた」

「そうかよ。大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だけど…宍戸君、今授業中じゃないの?」



俺の動揺には気付かずにいてくれたのか、次にもっともな質問を投げかけられる。その顔にはしっかり不安と書かれていたが、下手にごまかしても地雷を踏むだけなのでここは正直に答えることにした。



「俺の席からお前がぶっ倒れてんのが見えたんだよ」

「えっ、もしかしてそれで授業抜けてきたの!?」

「悪ぃかよ!?」

「いや、あの、…ありがとう」



勢いには勢いで返しちまえ。そんな自棄はそれなりに効果があったのか、頭まで布団をかぶった所をもう一度引っ剥がしてみると、朝倉は嬉しそうに微笑んでいた。
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