日常の中の幸せ

「夏ねー」

「夏だねー」

「夏だな」

「…あっつーい!!」



芥川は痺れを切らしたようにそう言うと、暑さの苛立ちからか机をバンッ!、と思いっ切り叩いた。

けたたましく鳴り続ける蝉。容赦なく照らし続ける太陽。誰もが此処氷帝学園をお金持ち学校と称するが、今年は温暖化現象を緩和する為の方法のひとつ、二酸化炭素削減を学園全体で協力することになった。ゆえに、クーラーの使用頻度が例年より少ないのである。



「確かに削減は必要だから仕方ないんだけどね…」

「うちの学園でうちわを使ってる奴なんていなかったのにな」

「あとべー家から扇風機もってきてー」

「それじゃ意味ないでしょ」



やはり地球の為といっても、例年当たり前だったことをいきなりなくするとなると、賛否両論はあるようだ。

そんな風にあまりの暑さに4人が項垂れていると、そこでちょうどよくチャイムが鳴った。地獄の授業の始まりである。



「景吾、汗かいてる。うちわであおいであげるー」

「あぁ、サンキュ」



真夏の炎天下。しかし、今日はなんだか特別なことが起こる予感。果たしてそれは良いことなのか、悪いことなのか。



***



「こんな時に体育って…」

「完璧喧嘩売ってるとしか思えないわね」

「香月、怖い」



この猛暑の中、体育は今日から陸上競技が始まる。やる気満々な人は誰1人いなくて、皆保冷剤やうちわ、ミニ扇風機など体を冷やす物をそれぞれ手にしてる。



「アンタ焼けたりしたら駄目なんじゃないの?」

「指数が強めの日焼け止め塗ってきたから一応は大丈夫だと思うけど…競技する時以外にこれは脱げないかも」



苦笑しながら長袖のジャージを引っ張ってみせると、香月は持ってたうちわを物凄い勢いで私に向かって煽いでくれた。涼しいー。



「見てて暑苦しいことこの上ないけど、こればっかりは仕方ないからねー」

「あははっ」

「あ、次私競技だ。ホラ、うちわ貸しててあげるからちゃんとあおいでなさいよ」



そうして軽くうちわを投げ渡され、駆けていく香月の後ろ姿を見ながら私は額の汗を拭った。

すると、突如頭がグワン、と眩んだ。これは…頭痛?目眩?どっちにしろ、自分の様態がわからないほど鈍感ではない。やば、何か倒れそうだ。そんな危険を察した私は、水道に行く為にフラフラと立ち上がった。



「水道ー…」



どうか、一大事になりませんように。



***



「(…フラッフラじゃねぇか)」



退屈な授業。頬杖をつきながら窓の外を見ていた俺の目に、見覚えのある女が映った。だが、その女は一目見てわかるほど様子がおかしい。あんな千鳥足なのは普段のあいつじゃありえねぇし、つーかあいつじゃなくても千鳥足で歩くのはありえねぇし。

なんていうどうでもいい考えは切り捨て、俺は再びグラウンドに目を向けた。しかしパッと見そこにあいつの姿は無く、思わず息を飲みながら血眼になってグラウンド全体を見渡す。

そして。



「先生、何か頭ガンガンするんっすけど」

「部活に響いたら困るな、氷でも貰ってきなさい」



適当な嘘を吐いて、周りの女からの大丈夫?、という声を軽く流し、教室を出てすぐに全力疾走する。行先は勿論保健室なんかじゃない。

あいつ、何やってんだよ。そんな焦りからか、俺の額からは暑さとは別物の冷や汗が出た。
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