「―――ですよね!」

「ふふ、そうですね」



テンポの良い会話に素の笑顔がもれる。

なんと今回は見開き4ページ分を取材してくれるらしく、しかもこれの為にファンの方々から事前に質問を集めて下さったらしい。出させてもらえるだけでも嬉しいのにそんな企画まで組んでもらえて、本当に感無量すぎて未だに浮かれる気持ちを止められない。



「それでは、次の質問良いですか?」

「はい、どうぞ」

「ペンネームMiuっ子さんからです」

「わー、嬉しいペンネームですねー!」

「Miuさんが大好きなんですよ!えー、質問の方ですが…」



次々と投げかけられる質問に心は躍る一方だ。



「こんにちは、私はMiuちゃんの大大大ファンです!そしてMiuちゃんと同じ高3なんですけど、私の学校にMiuちゃんみたいな人が学校中大騒ぎだと思うんです!」



若干核心をつかれたような質問にドキリとしたけれど、ここは平然を装って「そんなことないですよ」とだけ答えておく。実際は大人しくしてるから、この言葉に嘘は無い。



「それで、Miuちゃんは学校ではどんな日常を送っているんですか?との事ですが」

「あー」

「鋭い質問ですねー」



本当に鋭いよ、と内心苦笑する。でも本名は非公開だし、本当のこと言っちゃっても大丈夫かな?そう思い北野さんにチラリと視線を向けると、親指を上にしてOKサインを出してくれたので私は再びインタビュアーさんに向き直った。そうだ、折角私の為に質問を考えてくれたんだし、ここはちゃんと話そう。



「実は私、学校には変装して行ってるんです」

「変装ですか?」



とりあえずそう切り出せば、流石に予想外だったのか上ずった声で聞き返される。



「はい。どんな格好かは流石に言えないんですけど、周りには秘密で頑張ってます」

「それはバレたら…?」

「厄介だっていうのもあるんですけど」

「ですよねぇ」



うんうん、と共感してくれたインタビュアーさんにほっと一息をつく。此処で否定されたらどうしようかと思った。



「でもやっぱり、モデルとして見られる事が1番嫌なんです」

「モデルのMiuさんとして、ですか?」

「はい。普段は勿論そう見るのが当たり前だと思うんですけど、基本特別扱いは苦手で。皆と平等でいたいんです。私変装したらなんというか、凄く暗く見えるんですけど、それでも一緒にいてくれる人達がいるから今はそれだけで充分です」



私がそう答えればスタジオには感嘆の声が次々と上がり、流石芸能界はお世辞が上手いなぁとちょっと捻くれた事を思いつつも、若干照れる。特に目の前のインタビュアーさんは大袈裟なまでに首を縦に振ってくれていて、その優しさに小さく笑う。



「友達の大切さをよく理解していますね」

「そうですね、学生時代の友達は一生モノだと思うので。という事で、普段はひたすら地味な生活を送ってますよー」



語ってばっかりで質問に答えていなかったことを思い出し、最後はそれでくくった。

その後もいくつか質問されて、写真を何枚か撮って、そんな感じでこの日の仕事は無事終わった。



***



本当に、この人が。

日吉は宿題中にたまたま目に入ったCMに釘付けになっていた。それもそのはず、そこにはMiuこと泉の姿があったのだ。マスカラの宣伝のようで、いつもとは違う濃いメイクがより一層泉を引き立てている。



「(明らかに高3ではないだろ)」



宝石のような煌びやかさとモノトーンを基調としたセットの中に、泉は黒いドレスを着て佇んでいた。BGMもクラシックで、日吉の言う通りその姿はとても高3に思えない。そもそも、その化粧品自体大人の女性が使うものである。

白い肌、細長いしなやかな手足、漆黒のストレート、鮮やかに彩られた唇、そして目力のある瞳。

その全てに何かが惹きつけられた日吉は、未だに今日図書室で出会ったのがモデルのMiuだと信じられないようだ。



「…素顔は俺しか知らない、か」



その一言を最後に、日吉は再び宿題にとりかかった。

果たして彼の中に生まれたのは興味なのか、自分しか素顔を知らないというただの優越感なのか、それとももっと違うものなのか。もしかしたら、彼はもう既に気付いているのかもしれない。
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