「全くあの子らしい考え方だったわね」

「あぁ、どこまでもな」



先程の結論が出た後、なんと泉は大急ぎで早退してしまった。優等生の泉が若干具合悪そうにすれば早退の許可は用意に取れ、もうそこはもぬけの殻となっている。しかしそんな突然の事にも動じないのが跡部と香月だ。



「で、いつまで狸寝入りしてんだよジロー」

「…泉、俺には話してくれるのかなぁ」



が、その2人とはまた別に、ただただ不安になっている者も1名。3人はそれぞれ違う想いを抱きながら、泉が出て行ったドアの方を見つめた。



***



「珍しいな、お前が学校サボッてまで俺を呼び出すなんて」



あれから私は、街の通りにある適当なカフェに駆け込んで、すぐさま目的の人物を呼び出した。



「せっかくの休憩中にごめんね、優兄」

「いや、最近忙しくて会えてなかったからな。ちょうどよかった」



来れるかな、と思ったけど、優兄はこのカフェの近くにあるお店で働いてるから問題は無かったみたいだ。ちなみに今は休憩時間との事で、やっぱり急いで抜けて来て良かったと息を吐く。

そしてまずはお互いの近況報告を済ませてから、時間も限られているので私は早速本題について色々話し始めた。優兄は口出しをせず、静かに話に耳を傾けてくれる。



「つまり、あいつらにとっての当たり前を崩して混乱させたくないっていうことだろ?」



しばらくして話し終えてから、ウダウダと並べていた言葉を簡潔にまとめてくれた。相変わらず頭の回転が速い。



「うん、きっとそんな所」

「ほんっと相変わらず心配性だなーお前。そりゃあびっくりはするだろーが、お前がそこまで信頼してる奴らなら大丈夫だろうし、仕事の面で支えてくれる奴らがいるのは有難い事だと思うよ、俺は」



私にとっては一大事だったんだけど優兄からしてみると簡単な事だったのか、そう言ってコーヒーに口を付け、運ばれて来たパスタを食べ始めた。いただきまーす、と悠長な声が耳に入り、優兄こそ相変わらずじゃんと心の中でつっこむ。

でもまぁ、これで悩みは晴れた。



「優兄がそう言うなら大丈夫だよね」

「俺の後に物事決める癖も直らないしなぁ」

「自立出来なくてごめんなさーい」



少しおちゃらけてみせれば私の好きな優しい笑顔を向けてくれて、すうっとわだかまりが消えて行くのを感じる。

それからもしばらく他愛も無い話をして、途中でケーキを奢ってくれたので有難く頂戴し、お店を出たのは大体1時間後くらいだった。



「わざわざありがとうね」

「たまには顔見せに来いよ。じゃあな」



優兄と別れた後は、仮病を使った手前学校に戻るのは変な話なので、そのまま大人しく家に直行した。本当は合宿分の勉強取り戻さなきゃいけないから出た方が良かったけど、まぁ今回は特別という事で。ありがとう、優兄。



***



「ほぉ、言う事にしたんか」



帰ってご飯を食べてひと休みしていると、雅治から電話がかかってきた。何か用事があったのかな、と思ったけど特にそういう訳ではないらしいから、聞き役に回ってくれた彼に今日の事を話す。



「アイツら絶対驚くなり」

「なんか侑士とかは気付いてそうだけどね」

「勘が良いからの、忍足は」

「やっぱりそう思う?」



雅治のお墨付きって事は、やっぱりそうなんだろうなぁ。度々意味深な言葉は言われてきたし、いつものおふざけはそのカモフラージュなのかも。と珍しく深追いしてみる。



「まぁ、暇出来たら立海にも遊びにきんしゃい」

「近々行くねー」



それからまた他愛もない話をした後、私達は電話を切った。



「何て言おうかな…」



で、また考えるのはやっぱり明日の事だ。とりあえず放課後は皆部活があるから、昼休みに話す事は確定している。問題はそれをどう話すかだ。

数分頭を捻って考えてみるものの中々良い案が浮かんでこない。そうするとそこで私の悪い癖、他人に頼ってしまう現象が起きた。悪いなとは思いながらも体は正直で、気が付くとリダイヤルから香月の番号を探して発信ボタンを押していた。3コール目くらいで通話モードになる。



「はいはい、結論の報告?」

「流石、話が早い事で」

「大体わかるわよ。で、その様子からいくとやっぱり?」

「うん、言う事にした」

「だよね」



心なしか香月の声色が嬉しそうになったのを聞いて、やっぱりこの答えは間違ってなかったんだと改めて自信が付く。



「アイツらも喜ぶわー」

「なんか香月お母さんみたいだね」

「アイツらの母親なんて絶対嫌だ」



そんな事を言いつつもやっぱり香月は楽しそうで、ちょっとからかいたくなったけど必死で否定してくるのは目に見えてるので笑うだけにしておいた。



「いつ言うつもりなの?」

「予定としては昼休みかな。とりあえず放課後以外」

「放課後は私も部活だから絶対駄目!」



本気で念を押してくる香月にわかったからと返事をし、しばらくしてじゃあまた明日という話になり電話を切った。あれ、結局報告だけでなんも解決してないかも?まぁいいっか、声聞けただけでなんか安心した。…けども、1人の空間になった今、次は不安じゃなくて緊張が襲ってきた。我ながら忙しいなぁと思う。でも、自分が決めた事だから変える気は毛頭無い。

これ以上余計な考え事をしない為にベッドに入ってみたけど、結局眠りにつけたのはそれから約1時間後くらいだった。明日は私にとってどんな日になるんだろう。そればかりが気になった。
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