「これで今回の短期合宿は終了だ。1週間お疲れ、といった所だな。次は全国で会おうぜ」 その締めの言葉と共に周りからは拍手が起こり、私も同じように手を合わせる。そうすると不意にとすん、と右肩に重みが圧し掛かり、頬に当たったふわふわな髪の毛で誰なのか理解した私は、呆れ半分でそちらに目を向けた。 「ジロー…」 すやすやと寝息を立てて眠るジロー。でも景吾が話してる時間はずっと起きてたから、きっとジローなりには頑張った方なんだろう。 「まぁ、耐えた方なんちゃうん?」 「いつもならそっこー寝てるしな」 「合宿でもいつもの練習よりは起きてたしね」 侑士、宍戸君、ハギもそう言うので今回は多目に見てあげよう、という結論になり、ジローは私の肩から樺地君の背中へと移動された。正直、皆がジローに甘いのは今に始まった事じゃ無い気もするけれど、まぁいいか。 「いいよなぁーコイツはっ」 「跡部部長でさえジローさんには甘いですからね」 「どうもジローは同い年って感じがしないんだよね」 「年上にも見えませんがね」 「ウス」 「うん、私から見ても弟って感じだな」 そう雑談してると、我らが部長の景吾が戻ってきた。早速目に入った居眠りジローに若干青筋を浮かべたけれど、私達が景吾の話はちゃんと聞いていた事を伝えれば、当たり前じゃねーのと言いつつも満更でも無い表情に変わった。 「お前達、行くぞ」 そこで榊先生がかけた召集に反応し、私達は反射的にそちらに足を進める。私達氷帝は1番最初にバスに乗り込む事になっているので、トップバッターが遅れをとる訳にはいかない。 「じゃあな、お前ら」 「さようなら!」 最後に景吾と一緒に他校の皆に挨拶すると、皆もそれに応えてくれた。 「泉ー!絶対こっちにも遊びにきてなぁー!」 叫んだ金ちゃんを筆頭に色んな人が話しかけてくれて、嬉しさの中にちょっとだけ切なさが込み上げてくる。 「また、絶対会おうね」 皆には聞こえないだろうけど、座席に座った時にそう呟いたら隣から頭を撫でられた。この手の感触と暖かさで誰かわかるなんて、流石私!…なんて。 「泣くんじゃねぇぞ」 「泣かないよ、泣くはずないじゃん」 「名残惜しいですって顏に書いてあるぜ」 確かにそれは間違いではない。むしろドンピシャだ。でも、最後を泣き顔で飾るにはあまりにも感情的すぎて恥ずかしい。 「バイバイ!」 だから私は満面の笑みを取り繕い、バスの中から皆に手を振った。またね、皆。 *** 長い合宿が終わって得たものは沢山ある。これからそれをどう生かしていくかは結局は自分次第。 とか固い事を考えるよりも、ただ単純に皆とまた会いたいって思う気持ちが1番大切なんだろうなぁ。 これまでも何度も言っている気持ちを小さく呟くと、隣からまた暖かい手が頭の上に落ちてきた。その心地良さに身を預けて私は完璧に眠りにつき、こうして長いようで短かった合宿生活は幕を閉じた。 「ありがとな」 |