「あ、誰か来たよー…って、わー!泉さんだー!皆ー!泉さんだよー!」 「そんなに大騒ぎしなくても」 あまりに大げさな剣ちゃんの背中を叩きつつ中に入ると、そこには六角ならではの和やかな雰囲気があった。一瞬にして心が穏やかになるのを感じる。 「いらっしゃい」 「よく来たなぁ!」 「うん、挨拶回りに」 「…椅子座りますか?」 「大丈夫だよ、ありがと」 私はまず青学でも言ったように、この1週間に対してのお礼を言った。そしてその後に皆の顔を見ながら言葉を向ける。 「六角の皆はどの学校よりも上下関係がなくて、何か小さい頃に戻った感覚になったよ。その分皆の前では少しはしゃぎすぎちゃったかもしれないけど、それでも受け入れてくれて本当に楽しかったです。今度は是非潮干狩りに参加させて下さい!」 「いつでも大歓迎なのね!」 「クスクス、案外難しいからね?潮干狩り」 「頑張りまーすっ」 〜ね!という口調で話すいっちゃんは、何故かそれだけで話しているのが楽しかった。ミステリアスな亮君は、実はその美白の秘訣を教えてほしいなーなんて思っちゃってたり。 「…アリが10匹」 ダビデはなんていうかもう、今まで会った事のない全くの新種のタイプで、新発見ばっかりだった。 「寂しいですけど絶対近いうちに遊びに来てくださいねー!」 「あぁ、いっちゃんも言ったがいつでも大歓迎だぜ!」 「その時をこっちも心待ちにしてるよ」 「うん、私も今すぐにでも行きたいくらいだよ」 剣ちゃんは言わずもがな愛着の沸く子だったなぁ。バネさんは男気に溢れてて頼れたし、サエはまぁ周助とかと同じニオイはするけど、良い人な事には変わりないし。六角、いつか絶対一緒に潮干狩りしたい! 「それじゃあね!」 そして、心が弾むような気持ちで私は部屋から出た。 六角の皆、ありがとう。 *** 「あーっ!泉やん!」 「やっほ、金ちゃん」 四天宝寺で出迎えてくれたのは金ちゃんで、嬉しい事に金ちゃんは私の顔を見た瞬間笑顔になって飛びついてきてくれた。物凄く可愛いんだけど、とは言ってもやっぱり高1の男子に抱きつかれるのは少し苦しいよ金ちゃん。 「何抱きついとんねん遠山ゴラ」 「光ぅ、落ち着きなさーい」 「己を失うべからず」 なんとかその状態のまま中に入ると、そこにはお菓子を食べながら楽しそうにしている皆の姿があった。ミーティングというよりも雑談のようなその雰囲気に、四天宝寺らしさを感じる。 「そろそろ泉が大変になる頃たい、離れろ」 「せやなぁ、わかったわぁ」 「聞き分けがいいね」 「ちゃんと教育しとるんやから当たり前やろ!ほら、座りや」 「はーい」 そこでようやく金ちゃんは千里の言葉により離れ、私は蔵ノ介に言われるまま適当な場所に座った。 「挨拶回りにでも来てくれたんか?」 「その通り!」 謙也に返事をした後、私はとりあえずまたお礼から入った。その後に続けて言う事にも皆真剣に聞く耳を持ってくれて、何か少し恥ずかしい。 「本場のお笑いについていくのには正直苦労したよー」 「あら、まだまだね!」 「うん、まだまだだよねー。だけど、だからこそ四天宝寺の皆の前ではいつでも笑顔でいれたし退屈する事もなかった。1週間、こんな私に構ってくれてありがとね」 そこまで言い終えると、皆は目を細めて優しい笑顔になった。何かにつけて漫才が始まる皆は、大爆笑は多いもののこういう笑顔は新鮮で、また新しい発見を出来た事に嬉しくなる。 「ワイ泉大好きやもん、絶対また遊ぼうなぁ!」 「次はお化粧の話でもしましょうねー!」 「泉なら小春に触ってもえぇで」 話しやすさでは金ちゃんと小春が群を抜いていたと思う。金ちゃんは弟っぽいのと、小春は女友達と話す感覚でいれたからかな?ユウジは基本小春と話す人の事は皆敵視してるけど、その中でもお許しを頂けたみたいでガッツポーズ。 「朝倉はんはよう働いてくれた。おおきに」 「こちらこそ、重い物運んでくれてありがとう」 銀さんは寡黙だけどいざという時助けてくれて、本当にありがたかった。 「まだ話し足りへんわぁ、今度侑士と3人で会おうや!」 「うん!是非!」 「自分でもよくわからんばってん、泉の前では落ち着けたばい。ありがとう」 「いやぁー照れるなぁ」 「そんな姿も可愛いッスわ。連絡よろしゅう」 謙也の侑士との真逆さは中々見てて面白かったなぁ、兄弟みたいで微笑ましくもあった。千里はなんだろう、包容力の塊だった。金ちゃんにも凄い懐かれてたし、そういう素質があるんだと思う。光君は…今の言葉もそうだけど、まさにギャップの塊だ。これに尽きる。 「ほんまようサポートしてくれたわ。色々助けられたで、これからもよろしゅう。ほんでありがとう」 「こちらこそ、困った時に助けてくれてありがとう。今度大阪にもお邪魔させてもらいます」 困った時、という言葉に含まれた意味は本人が1番分かっていると思うので、私と蔵ノ介は苦笑してから握手を交わした。 と、こんな感じで全員との挨拶が終わった後、また一目散に飛びついてきた金ちゃんを光君が物凄い勢いで離し、その光景に笑いながら私は部屋を出た。 四天宝寺の皆、ありがとう。 |