「ここで過ごすのも最後やなぁ」 「これ食べ終わったらもう解散だもんね。帰りは皆バス違うし」 「寂しくなるばい」 この宿舎と雰囲気に愛着を持っていたのはどうやら私だけではなかったみたいで、蔵ノ介と千里はしみじみとした感じで呟いた。2人だけじゃなくて、他の皆もどこかそんな感じがする。食いしん坊さん達を除いて。 「でもホンマ良かったっすわ、合宿に参加して」 「珍しく素直だね、光君」 「…まぁ」 「朝倉ちゃんの手料理は昨日で最後だったんだもんなぁー…」 「めちゃくちゃ美味かったっすよ!ほんとに!」 料理については、私だけじゃなくてマネージャー全員で頑張って作り上げたものだから、そんな風に褒められると凄く嬉しい。だから私は菊丸君と桃君の言葉に素直に喜んだ。 「…フルーツジュース、ありがとうございました」 「ううん、ちゃんとリサーチしてよかったよ」 口数が少なくて中々自分の意見を言えない人の好物は他の人から聞いたり、そんな風に人を喜ばせられる事も、私からしてみれば一種の楽しみだった。ちなみに海堂君は100%フルーツジュースが好物と聞いたので、おろしたてのジュースをあげたのはまだ記憶に新しい。 「絶対連絡してくださいっす」 「うん、カルピンちゃんも見に行きたいしね」 「じゃあ僕のお姉さんにも是非会いにきてね?」 「きっと美人なんだろうね。近いうちにお邪魔します」 「…色々世話になったな」 「いえいえ」 それから青学を始めとする色々な人に感謝の言葉を言われて、私はなんだか照れくさいような嬉しいような、そんなもどかしい気持ちで朝食の時間を過ごした。お礼を言いたいのはむしろこっちなのに。 で、最後の食事が終わってこれから30分は各校別室でミーティングが行われる。その後1時間は最後の自由時間だ。その間に荷造りもしなくちゃいけないけど。 氷帝は2階にあるミーティングルームでミーティングをする事になっているので、全員でぞろぞろと階段を皆で上る。 「先輩行きましょう!」 「はいはい」 鳳君と腕を組みながら張り切って行きますかー。でも身長差で背伸びしなきゃならないのはちょっと辛い! *** 「まず、1人ずつこの合宿で学んだ事や感じた事を言っていけ。テニスの技術面でも他のことでも何でもいいが、ふざけた事言ったらはっ倒す」 「何で俺の方見て言うねん」 ミーティングルームに辿り着くなり、私達は1つの輪になって座った。多少冗談を加えながらも事を進めてく、そんな空間が実はたまらなく好きだったりする。なんていうか、氷帝独特の雰囲気というのか。 「ししど、巻いて巻いて!」 「うるせぇな今考えてんだよ!」 それぞれが感想を述べていく中で感じたのは、ちょっとクサイ事言っちゃうけどずばり絆の強さだった。皆は中1から一緒で(中にはもっと前から一緒の人もいるみたいだし)、それくらい長い付き合いだからこそ本音でぶつかり合えてて、だから、そんな皆が言う言葉には凄く重みがある。 凄いんだなぁ仲間って。その中にちゃっかり私が居座っちゃってもいいのかな、なんて考えたり。と思っていると隣にいるハギが全てを見透かしたような笑顔で覗き込んで来て、そのタイミングの良さに私は目を丸くした。 「な、何?」 「もしかしてくだらない事で悩んでる?」 「え、くだらないって…」 私にとっては結構重要なんだけどな。口には出していないものの顔に出てしまったのは自分でも自覚したので、ハギは苦笑しながら違う違う、と言葉を付け足した。 「少なくとも、俺はこのメンバーに君がいて当たり前だと思ってるけど」 「アーン?そこ、何今更な事話してんだ」 「期間とか関係ないですよ!俺の愛の深さが重要です!」 「最もどうでもいいだろ」 いつの間にかハギだけじゃなくて皆からそんな言葉をかけられて、そこでもまた冗談を言ったり言い合いになったり。展開が速いから忙しくてどうしようもないけれど、やっぱり私はこんな皆が大好きだな、と改めて感じた―――が。 「って、こんな事してる場合じゃなかった!」 そこで各校への挨拶回りという用事を思い出した私は、こんな事って酷ない?と嘆いて来た侑士や他の皆をスルーして、立ち上がりドアの方まで駆けた。 「お前らいい加減うるせぇ!泉早く行け!」 「行ってきます!」 「泉先輩行かないでぇええぇえ!!」 全校分の挨拶回りというのは結構な時間を食うし、まだ荷造りも終わっていないからちゃっちゃと済ませなければ。背後では景吾のそんな怒鳴り声が聞こえたけど、なんだかんだ行ってらっしゃいと返事をしてくれた皆に、やっぱり頬は緩む一方だった。 |