「こんな所他の人に見つかったら、またどやされますよ」

「勝手に入ってきたのはこいつらだっつーの」



早朝。俺が用事があって跡部部長の部屋に行くと、そこにはすやすや寝ている芥川さんと
、無防備に、幸せそうな顔で眠っている泉先輩の姿があった。その相変わらずの振る舞いに溜息を吐く。もう何を言っても危機感を持たないな、この人は。



「いつから此処に?」

「かれこれ30分ぐらい前だな」

「…よくそんな時間に芥川さんが起きましたね」

「ジローが泉を連れて此処まで来たんだよ。まぁ俺らの顔見て安心したのかしらねぇが、真っ先に寝やがったがな」

「この人らしい」



俺は芥川さんの方を一瞥してから、再度部長に視線を戻した。ようやく本題に入れる。



「今日明日の練習予定を聞きたいんですが」

「お前もせっかちな奴だな」

「何でも先に知っておきたいんです」



からかってくる部長は置いといて、とりあえず今後の予定を聞く。合宿後の練習予定も把握しとかなければ、トレーニングの内容を決められないからだ。

部長は淡々と練習予定を言ったので、俺の用事はすぐに終わった。だから戻ろうとドアに足を進めていたら、ふいに部長は俺の名前を呼び止めてきた。なんですか、と言いながら其方を振り向く。



「チラチラ見るくらいなら気の済むまで見たらどうだ?今なら寝てるから見放題だぜ」

「失礼します」



余計なお世話だ。



***



「やっと起きたか」

「あとべぇ…?」

「2人してアホ面かましてんじゃねぇよ。後15分で起床時間だぜ?」



寝る直前に鼻をかすめたものと同じ紅茶の香りでまた目が覚めた。体にはブランケットがかけられていて、ジローも同じタイミング起きたのかごしごしと目をこすっている。



「髪ボサボサだー…」

「結ってやるから大人しくしてろ」

「うん」

「あー泉動かなくてEじゃーんずるいー」

「お前に俺が何をしろっつーんだよ」



ベッドの上で駄々をこねるジローに景吾は苦笑してたけど、まぁ私は無関係だから放って置くとしよう。ちなみに景吾はもう準備万端で、部屋に来た時も思ったけどこの人が完璧じゃない時ってあるのかなとしみじみ思う。

鏡前に座らされて、手首に巻いてあったヘアゴムを渡し早速結ってもらう。手先が器用な景吾だから安心して任せられるけど、これが宍戸君とかだったら多分渡してなかったかも、なんてごめんね宍戸君。



「ジロー、もう景吾の布団の上で寝たらだめだよ」

「放っておけ、後で叩き起こす」

「わーDVだ」

「違ぇだろ」



その会話が終わったと同時に、一瞬私達の間に沈黙がよぎった。



「…バレちまったな、何人か」



1番触れて欲しくない所をがっつりと触れられ、眉が下がるのを感じる。こういう時に容赦無いのが景吾だ。でもこればかりは自業自得なので、すみません、と肩をすくめながら謝る。



「無防備すぎんだよ、バレたもんは仕方ねぇが」

「皆口は固いと思うしさ」

「何がー?」



と、その時。急に起き上がってきたジローに、私達は声にならない叫びを上げながら振り向いた。うっわぁああ今めっちゃめちゃびっくりした!まさか急に起きるなんて!モデルの事自体は口に出してないから大丈夫だよね?しかも寝起きなら余計話の内容理解できないよね?一気に上昇した温度を必死に下げようと努めつつ、バクバクの心臓を抑える。



「何でもねぇよ寝てろ」

「そーお?…ぐー」



私が冷や汗をかいている中景吾が冷静にそう言ってくれたおかげで、ジローは何の疑いもせずまた眠りについた。此処にいるのがジローで良かった、と心の底から思う。



「やっぱりこの話は他の人がいない場所でしよう」

「だな。出来たぜ」

「ありがとう」



そして髪も結び終わった所で、私は着替える為に一度自室へ戻る事にした。ジローを頑張って1人で起こしてる景吾の姿は見えてないフリで、そそくさとその場を立ち去る。



「いい加減、俺にも教えてくれたって良いじゃんかぁ」

「…俺の口からは言えねぇよ」



さーて、朝ご飯は何かなー。
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