「花火やーっ!」

「き、金ちゃん危ないよっ」



静かな雰囲気も終わり、イベントの最後である花火が始まった。花火を6本持ちしている挙句振り回す遠山を見て、周囲の者は冷や汗ダラダラといったところだ。勿論泉も例外ではない。



「蔵ノ介、金ちゃん教育し直さなきゃ…」

「ははっ、せやなぁ」

「絶対思ってないっすよね」



自分の事は勿論、泉の意見もスルーして笑っている白石に海堂は呆れたように視線を逸らす。

しかしこの人数だと花火の消費時間も凄まじく速く、泉は早々に最後の締めである線香花火を全員に配り始めた。



「何、花火大会でもするの?」

「さっすが精市、勘が良い」

「負けないぜ!」

「赤也君、ブン太の花火にずっと息吹きかけててね」

「了解ッス!」

「お前らふざけんな!」



途中で冗談も加えつつ、少しして全員に配り終えてから泉は樺地の隣に座った。海での1件があって以来信頼を持ったようで、それに樺地の穏やかさも相まってか彼女の表情は自然体だ。



「あ、景吾こっち来て!風除け!」

「…ふざけんなよ?」



とそこで彼女は、樺地とは逆の位置の地面をポンポンと叩き、跡部を呼び寄せた。そんな理由で呼ばれた跡部は若干不服そうな顔を浮かべたが、なんだかんだで言う通りにしてしまうあたりが弱い。



「始めんぞー!」



そして、向日の言葉で線香花火大会は幕を開けた。



***



「よいしょ」

「ちょっ…!」

「あ、風で落ちちゃった?ごめんね越前全然わざとじゃないんだよ」

「…んにゃろう」



どうやらこういった勝負事となると、火花が散るのは花火だけではないようだ。それもそのはず、途中から勝者は誰かに何でも命令が出来るという特典がついたのだから、全員の士気も俄然高まっている。



「むんっ!」

「…力んだ所で落ちたものは元に戻せないぞ、真田」

「あぁっ!手塚さんの吐息で落ちちゃったじゃないですか!」

「どんだけ息荒いねん、ってまた着けんなや!」

「あぁもう忍足さん邪魔しないでくださいー!」



落ちた者は潔く、という言葉はあまり彼らにはないようだ。証拠に葵が、一度火が落ちたにも関わらず再度火を着けようとしている。それを侑士がツッコみ、鳳は避難し。



「真剣じゃのう」

「喋らないで!」

「今話しかけてもまともな返事は望めないようだな」



泉に至ってはえらく集中しているのか、たかだか線香花火如きにこれでもかというくらい目を見開き真剣な表情をしている。仁王と柳はそんな彼女を見てちょっかいをかけたくなったが、この雰囲気は確実に怒られるそれなので何も言わずに笑って見過ごした。



「膝が痛ぇ」

「早く落とせば立てますよ?」

「…誰が落とすか」



次期部長と現部長の火花もチラホラ。



「やったーーーっ!」



そして、勝負は決まった。



「んー、まぁ2番目に良い結果だね」

「おや、幸村君。1番は何だったのですか?」

「え?俺が勝つ事に決まってるじゃない。それ以外に何かある?」

「…でしょうね」



最後まで残ったのは泉だった。持ち前の集中力で周りからの邪魔にも屈せず、何とか持ちこたえたようだ。周囲の者も、自分以外の男が勝たなかったからか素直に祝福している。



「で、命令は何だよ」

「んーっとね」



泉は跡部の言葉で軽く目を瞑り考えると、柔らかな表情で少し照れ臭そうに口を開いた。



「また、皆でこうやってくだらない事で騒ごうね」



どんな命令が来るのかと若干緊張していたのも束の間、その言葉に彼らは揃いも揃って締まりの無い笑みを浮かべた。花火の煙のせいで空気は若干濁っているが、その笑顔はそんな事を微塵も感じさせなかった。



「やはり、正解でしたよ」

「あの子を此処に連れてきた事が、か?」

「はい」



勿論、メンバーを見守る監督達も含めて。



「…やっぱりちょっと恥ずかしいね。さーて宿舎戻ろっとー」

「お!鬼ごっこっすか!負けてらんねぇーな、負けてらんねぇーよ!」

「素直じゃない所も可愛いね」

「丸わかりなのにね」

「そこうるさいよー」



幸村と木更津のからかいに睨みを効かせる泉。怖くもなんともないその表情に、その場は再び笑い声で賑わった。



「羨ましい限りじゃのう、氷帝は」

「まぁな」



そうして全員が宿舎に向かって走り始めた時、流れ星が1つ夜空を横切った。その星に気付いた者はいなかったが、願い事などしなくても、もう彼らの気持ちは充分満たされていた。
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