「やっと食い終わったのか」

「うん、詰め込み過ぎちゃった」

「ほんとハムスターみてぇだったもんな」



やっとの思いで口の中の物を全て消費出来た泉は、その時たまたま近くにいた宍戸の元に近付いた。ちなみにバーベキューは立食形式で行われており、これだけ人数がいれば人の入れ替わりも激しい様子だ。にも関わらず網の上の食べ物は凄まじい勢いで減っていくのだから、その食欲は計り知れない。



「つーか口元になんか付いてんぞ」

「え!何処?」

「逆逆」



小動物の次は子供か、と内心ツッコミつつ、それでも見てて微笑ましいのは確かなので、自分も保護者になった気分でその口元に触れようとする。



「オラオラバーニング!!皆食えってんだモンキー!」



その時、2人の背後で一際大きな声がした。思ったよりも近くで聞こえた事に驚き、意識は一気にそちらに持って行かれる。

トングでもあぁいう状態になんのか、あいつ。そうみたいだね。なんていう悠長な会話を交わしていたのも束の間、河村はトングを黒羽に取り上げられた事によりバランスを崩し、そのまま宍戸に思いっきりぶつかった。



「っぶねぇなオイ!朝倉、大丈…」



体格こそ差はあるものの、まさかそのまま泉と一緒に倒れこむなどという無様な姿を見せる訳にはいかない。そうしてほぼ意地のみで体勢は持ちこたえたのだが、そう問いかけると共に視線を泉に戻すと、彼の動きは見事に停止した。



「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」

「…おう」

「なーにしてるんすか宍戸サン!あんた潰すよ!」



反射的に自分の服を掴んだ泉がその大きな瞳でこちらを見上げていたのだが、その経験した事の無い距離感に宍戸は即座に間を取る。いつもはやかましいだけの切原でも、今だけは来てくれて良かったと心底思ったのは、情けないので自分の中だけに秘めておく。

という小さなハプニングもちらほらありつつ、全員分のごちそうさま!という挨拶が響き割ったのはそれから約30分後だった。



「だいぶ食べたッスね」

「うん。美味しくてつい」



お腹をさすりながら満足そうに微笑む泉に、越前も満更でも無い表情で返す。そんな風に2人が雑談をしていると、不意に芥川が大きな声で「あ!」と大声を上げた。それに周りは反応し、彼の目線の先を辿る。



「わー…」

「流石山中だな」



するとそこには、全ての星がキラキラと輝いている満天の星空があった。瞬きも忘れてしまう程のその美しい空に、跡部も感心したように見上げる。



「こんな綺麗な星空、普段俺達がいる場所からじゃ見れないよね」

「お前らんとこなら見えるんじゃね?」



幸村の言葉に続き、丸井は六角に目を向けながら質問を投げかける。六角といえば海、のイメージが強い事からの疑問だろう。



「あぁ、だけどこんな綺麗なのは滅多にねーぜ」

「皆で見るから更に綺麗ですねー!」

「うん、本当にね」



段々と会話もなくなっていき、最終的には全員が無言でしばらく星空を眺めていた。



***



まだ決まった訳じゃないし、出来る事ならあんまりしたくない。

1週間前、合宿のマネージャーをやってほしいと榊先生に頼まれて教室に戻った後、私はこんな言葉を呟いていた。それが今じゃあの時の言葉とは真逆な気持ちになってるなんて、と自分でも未だに信じられない。

仕事の事では北野さんに色々迷惑をかけてしまったから、反省しなきゃいけない事もある。でも、合宿に来た事で色んな人との交流を深められた上に、頑張ってる皆の姿を見て羨ましくも思った。同時に、マネの仕事にやりがいも感じた。

寂しいなぁ。

いつでも会えると思えば会える距離なのにこんな事を思っちゃうなんて、私も結構重症かもしれない。この合宿に参加して本当に良かった。沢山の人に出会えて本当に良かった。

絶対にまた会おうね。星空を見上げている皆を見て考えた事は、口に出すのは恥ずかしいから思うだけにしておく事にした。
 5/7 

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