「おぉ、お前達来たのか」 「美味しそう!…って、準備始めてたなら言って下さいよ」 野外の食事場に行くと、そこには既に用意された野菜や肉が山盛りに置いてあった。呆気からんと言い放つ竜崎に、泉は申し訳なさそうに眉を下げる。 「今回の合宿は何から何までお前達に任せっきりだったからな」 「でも発見したからには手伝います!」 「マネージャーの鏡やなぁ」 腕まくりをして意気込んだ泉に、渡邊が感心したように言葉をかける。それまでの用意を行っていたのは見ての通り各校の監督と合宿所のスタッフで、残りの用意は勿論全員でやる事になった。各々が自分の出来そうな仕事に取り掛かる。 「美味しそうだにゃー」 「先輩、つまみ食いは駄目っすよー!?」 「それはお前だろーが」 「あ?んだと?やんのか海堂」 「つまみ食いって言ってもお肉まだ生だからね」 泉がそう言えば桃城と海堂はポカンと口を開け黙り込み、彼女はそんな無邪気な後輩達に微笑む。そうして全員がきちんと手伝ったおかげで、準備はすぐに終わった。 そして楽しい楽しいバーベキュータイムの始まり───の、はずが。 「お前はひっこんでろぃこの生意気1年ボーズ!」 「やだ。俺だって食いたいっす」 「2人共落ち着きたまえ!」 「よっと」 「あー!?何取ってんだよ仁王ー!?」 「菊丸、静かにしろ」 どうやら和気藹々というよりは戦場と化しているようだ。食べ盛りの男児の食べ物の恨みは何とも恐ろしい。しかも泉の傍らでは乾がお得意の乾汁を進めて来て、彼女は引き攣った笑みでそれを軽くかわした。 「泉ちゃん、お箸が止まってるわよぉ?」 「皆の勢いが凄いから圧倒されちゃって」 「そんなんじゃ何も食えへんでぇ!」 「そうだよね…よし」 「…泉?」 ラブルスの発言により目つきが変わった泉を見て、謙也は不思議そうに首を傾げる。するとどうしたものか、彼女は唐突に向日の口元に運ばれようとしていた肉を横取りした。勿論取られた張本人はギャーギャーと喚いているが、これは向日だからこその反応である。 「ほんなら俺のやるわ、ほらアーン」 「先輩、そんな絶頂野郎の奴なんかよりこっちの肉のほうが美味しいですよ」 「キノコ、表に出よか」 案の定その流れに便乗して来た数名を見て、一連の流れを見ていた謙也はやれやれ、といった感じで肩をすくめた。たかだか食べさせるくらいで何をそんな、と妙に大人ぶった考えをしてみるが、それに羨望が全く含まれていないといえばはたまた微妙な所だ。 「こっちもありますわ」 「やっぱりこれでしょ?」 「いーやこっちやろ」 財前、佐伯、忍足。他にも何人かのメンバーが同じ事を行い、それを繰り返していくうちに、 「泉ハムスターみたいやー!」 「…アホ」 遠山の言う通り、泉はハムスターが頬にエサを詰めたような状態になってしまった。周りは勿論大爆笑で、顔を赤くしながら猛反論しようと試みる泉だが、口の中に物が入っていては喋る事もままならない。そんな彼女に若干笑いつつも水を差し出すのは、いつも通り跡部の役回りだ。 そして大人しくなった泉は、そのまま小さな口を一生懸命動かし中の物を頑張って食べ始めた。まるで小動物のような姿につい見入ってしまった者は何人いるのか、もう数えるのも面倒臭い。 「…やっぱり泉さんって凄いわね、桜乃…」 「うん…」 傍観者2人はつくづくそう感じたとか。 |