「わー凄い凄いっ!」

「あんま暴れんなよ!?」

「さもなくばすぐに海に落下してしまうからな」



宍戸操縦のバナナボートは、只今猛スピードで海の上を走っている。



「落ちるのだけは避けたいッスわ」

「落としてあげようか?」

「怖いなぁ不二は」



走る際に生じる機械音はとても大きいので、それに伴い6人も普段より大きな声を出しながら会話をしていた。大抵は他愛も無いものなのだが。

大きくカーブを描く箇所ではボートは傾き、必然的に全員が前のめりの状態になる。するとその瞬間、宍戸は顔をユデダコのように赤くした。純情な彼そうなってしまう原因は、1つしかないだろう。



「(パーカー着てくれてて良かったぜ…!)」



宍戸も普段はもっぱら暴走したメンバー(主に鳳)のストッパー役だが、彼も男だ。泉のパーカーを羽織っていない水着姿を見たいとは思ったに違いない。しかし、この時は逆に彼女がパーカーを羽織っていた事に凄く助けられたようだった。背中に当たる柔らかさがもしも直に当たっていたら、恐らくこのボートに乗っている者達は全員海の中に放り込まれていただろう。



「朝倉、すまない」

「大丈夫!」



また、柳も先ほどの重力には逆らえず、最大限には抑えたが若干泉に向かって前のめってしまったようだ。



「宍戸さーん運転ちゃんと頼みますわー」

「わかった、っあぁ!?」



財前が言った側から宍戸は早速手元を狂わせた。それはもうドリフトのごとく跳ね上がり、さすがのメンバーも声がでないほど驚いている様子。

そして再び前のめりになり、今度は先ほどよりも威力があった為、慣性により後ろにも体が傾いた。



「大丈夫か?」

「あ、ありがとう」



しかし柳はそんな慣性に猛反発し、前から来る泉をしっかりと受け止めた。体が大きく体格の良い柳が財前へ勢いよく崩れたら、そのままドミノ倒しになっていた可能性が高いためそれは良い判断だった。



「つ…疲れた…」

「しばらくこのままでいるか?」

「うん、ありがとう」



そして泉はそのまま柳に身を預けた状態で、砂浜にいる他のメンバーの元へ戻った。宍戸、財前、不二、佐伯が降りても尚その体勢は変わらず、すると―――なんとあの今まで遠巻きから見ているだけだった柳が、泉を抱き上げ砂浜まで歩き始めたのである。それに他の彼らは唖然としているが、彼女は無垢な笑顔で「たかーい」などと騒いでいるだけ。彼はそんな彼女に微笑み、その微笑みとはまた違った挑発的な視線を彼らに送った。



「またか…」

「視線がたかーい!」



その視線だけで柳の心情を読み取り、頭を抱える跡部の気持ちなど、泉が知るはずもない。



***



それからバナナボートも終盤になり、日も落ちかけてきた頃。



「砂と同一化してるぜぃ!」

「朝倉助けてくれ…!」

「ごめん、結構笑える」

「マジかよ!」



丸井はジャッカルを砂に埋めふざけたり、泉はそれに笑ったり。他の者達もビーチバレーをしたりと、それぞれ自由に楽しんでいた。



「先輩ー!」

「ん!?鳳君異様に塩の匂いするよ!」

「俺達のボートはひっくり返ったとねー」

「鳳はんはあがってくるのが1番遅かったで」



その時近寄って来た鳳に異変を感じた泉は、千歳と銀の説明で納得するともう一度鳳に目を向けた。



「…カナヅチ?」

「違います!でもそんな俺でも先輩は受け止めてくれますよね?あー先輩優しすぎです」

「てめーは暴走しすぎだっつーの」

「慣れが肝心だよ」



冗談で泉がそう言うと鳳は何故か暴走し出し、急な事に呆れるのは切原。そのまましばらく雑談を続けていると、真田率いる最後のグループが戻ってきた。



「おかえりなさい」

「…スルリとやって来たスリル」

「精市が操縦したからじゃない?」

「それは褒め言葉かな?」



それと同時に日は完全に落ち、メンバーの目には夜の海の光景が映った。



「泉」

「あ、おかえり蔵ノ介。リョーマも」

「ッス」

「おおきに。っちゅーかそろそろバーベキューしないん?」

「うーん、もう用意してるかな?私ちょっと様子見てくる」



泉のその言葉に白石は「ほな俺も」と言い彼女と行動を共にしようとした。しかし、2人きりでの行動はさせまいとしているのだろう。そこには越前も同行した。



「あっ泉待ってー!」



とは言っても、その光景を見ていた者は多数いた。オープンな芥川に上手く便乗するように他の者も動き出し、最終的には全員が泉の方へ近付き、共にバーベキューを行う食事場へ向かった。
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