「まさか樺地君が知っとったなんてなぁー…」



予想外過ぎたで、と付け加える白石。彼の言葉に他の者は同意するように頷いた。



「えぇ後輩じゃのぅ」

「流石樺地、やるねー。妬いちゃうポジションではあったけど」

「樺地は違うでしょう」

「わからんばい。案外あいつもそうかもしれんけんね」



泉の正体を知る彼らは、未だ振り落とされそうになってる彼女とその取り巻きを見ながらそんな会話をしていた。



「早く降りてー!」

「ちょ、ジロ…無理ー!」



周りはふざけているようだが、泉にとっては物凄く一大事な為、その表情は必死そのものだ。樺地も泉のその心情を感じ取ってるのか、同様に必死である。彼の勢いに特に丸井と切原は圧倒されていた。



「クソクソッ早く泉降ろせよ樺地!」

「怒ってるのねー」

「元気なのはえぇけど、自分らバナナボートやらへんの?」



そこで侑士は、せっかくバナナボート乗り場に来たというのに別の事で騒いでいるメンバーを見て声をかけた。すると忘れていたのか、彼らは間抜け面で、あ、と声を揃えて返答した。



「忘れてたんかい」

「違う事に夢中で…そんな呆れた顔しないで財前君」

「早く乗るぞ」



手塚が指揮を取り、顧問が手配してくれたバナナボートに乗るべく彼らは足先を方向転換する。そしていざ乗ろうとしたのだが。



「ねぇ」

「にゃにー?不二」

「あのさ、誰が誰と乗るの?」



そこで不二がそんな質問を彼らに投げかけた。案の定その事を誰も考えてなかったのか、彼に返って来たのは無言のみだ。つくづく抜けている。



「俺先輩とが良いっす!」

「へっ?」



全員がどうするべきかと考えていると、急に切原がそんな駄々をこねだし、それに反応しお子様組はまたわめき始めた。海中から砂浜に移動した事でやっと振り回される事もなくなる、と安心したのも束の間だったようだ。



「ちょっと!そんなに引っ張っちゃ泉ちゃんが痛いじゃないのっ!」

「小春の言う通りや!」

「はよ離し」



謙也の一言で何とかその場は収まるものの、解決策はまだ見られない。



「バナナボート6人乗りやったか?ま、ここは公平にジャンケンやろ。各校1人ずつや」

「そのやり方でしか全員が納得するものはないようですね」

「じゃあ始めるか!」



白石の提案、柳生の同意、黒羽の掛け声で、各校は本気のジャンケン大会を始めた。

変なの、こんな事でムキになっちゃって。内心ではそう思いながらも、実際の泉の眼差しはやはりどこか穏やかだった。

それから数分後、勝敗が決まった。泉と共にバナナボートに乗るのは佐伯、不二、財前、柳、宍戸の5人。各校の勝者が周りからブーイングを受けるのは最早お約束である。そんな風に騒ぐメンバーなどそっちのけに、跡部は泉の正体がバレないか王様にしては不安げな表情を浮かべていた。



「じゃあ乗ろっか!」



そんな跡部の気持ちに泉が気付くはずもないが。そしてそのまま彼女は共に乗るメンバーを引き連れ、先陣をきってボートの側へ向かった。

乗り場に着き、どのポジションに乗るか頭を悩ませる泉。そんな彼女に声をかけたのは宍戸だ。



「お前、乗るなら2番目以降にしろよ」

「え?なんで?」

「…眼鏡、取れたら困るんだろ?理由は知らねぇけどよ。盾になってやるから後ろに乗れ」



ぶっきらぼうではあるが、ひしひしと感じ取れる優しさに思わず口がポカンと開く。その間が宍戸にとっては恥ずかしかったのか、彼は顔を赤く染め、頭をガシガシと掻きながら泉を自分の後ろに乗り込ませた。



「先輩の後ろは俺やろ」

「ここは先輩に譲るべきじゃないかい?財前」



そして始まるのは財前と不二による席争奪戦だ。佐伯はそんな2人を見て面白そうにしている。



「俺が乗った事に気付かず喧嘩を続けている可能性98%」



だがそんなことをしているうちに達人、柳蓮二が先に乗り込んだ。彼のデータに狂いはないので、言い争ってるメンバーが気付く事は勿論ない。

数秒後、柳に気付いた3人は一気に彼に詰め寄るが、それもお得意の開眼により一蹴された。もっともそれだけで不二と佐伯が引き下がるとは思えないのだが、あまり時間を無駄にするのも勿体無いと気付くなり意外にもあっさり引き下がった。1人納得のいかない財前はせめて近くにと思い、柳の後ろに座りこんだ。



「しゅっぱーつ!」



そして、泉達を乗せた宍戸率いるボートがスピードを上げ出発した。
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