海だ!

辿り着くなり叫んで海に駆け出して行ったのは、各校のお子様組である。その後ろ姿を見て泉もつい着いて行きたくなったが、ここで無邪気に飛び出す程子供らしくもいたくない。そんな考えを見抜いたのか、越前と不二は妙に笑顔で彼女に近寄った。



「我慢しないで行ってきたらどうっすか?」

「別に?リョーマだって行きたいんじゃないの?」

「俺は別に」

「あれ、おかしいなぁ。物凄い勢いで動いてるしっぽが見えるんだけど、僕の見間違いかなぁ」

「手塚くーん!」



俺は避難所か。つい1人で内心つっこんでしまった手塚の心情は、誰も知らない。



「泉さんが教えてくれたバストアップ法効いてるかしら…!」

「と、朋ちゃんバストアップって!」

「はっはーん先輩達を魅了する気だな!?お前にゃ無理だ!」

「なんですってぇ!?」



青学1年組も充分に盛り上がっている。



「海なんて何年ぶりやろ」

「海は楽しいぜぇーなぁダビデッ!」

「そうだねバネさん」



財前の呟きを拾う黒羽と天根にも、いつもの鋭いボケとツッコミは炸裂していなく、和気藹々といった雰囲気が漂っている。普段毎日のように海に触れあっている彼らは、1週間ぶりのそれに浮ついているようだった。



「今日も暑いしちょうどえぇわぁ」

「せやな、謙也焼け死ぬんやない?」

「あぁ?やるんか侑士!」

「ふっ」

「おい日吉。自分今笑ったやろ?なぁ笑ったやろ!?」

「忍足従兄弟は神経質、と」

「乾まで何なんお前!怖いわー東京!」



ギャーギャーと騒ぎ続けるのは謙也だ。そんな子供臭い彼を見て、日吉は相変わらず馬鹿にしたような笑みを浮かべている。それが楽しいものなのかどうかは断定できないが、彼らは学校別になる事なく全員で会話に華を咲かせている。

それから更に歩いて砂浜に突入すると、その場はより一層騒がしくなった。



「うわぁ凄い綺麗!」

「当たり前だろ」



鳳の言葉に得意げに反応する跡部の隣で、泉は思わず笑みをこぼす。彼の貴重な子供らしい姿を微笑ましく思ったのだろう。

と、その時。先陣をきっているお子様組が、大声で泉の名を呼んだ。予想外の事に彼女は思わず素っ頓狂な声を上げ、そちらに意識を向ける。



「こっちおいでー楽しCよ!」

「そーッスよー!」

「ワイと遊ぼうやー!」

「そうだにゃーっ」



マイペースな芥川に、兎に角騒ぐ桃城、芥川、菊丸。



「跳びまくろうぜっ!」

「跳んだら危険ですー」

「とりあえず早くー!」



向日の言葉にツッコむ葵に、泉を呼び続ける切原。そんな騒がしい彼らだけではなく、その場にいる者全員が彼女に笑顔を向けた。



「―――うん!」



そしてそれに応えるように、彼女も彼らの元へ駆けていった。



***



「全員着たか?」

「なんや跡部、いつもに比べて地味ちゃうん?」

「豹柄が支給されてねぇんだよ、ったく…帰ったら親父に言っておかねぇと」

「豹柄かいな」



所は変わり、水着レンタルショップ。どうやら男性陣は全員水着に着替え終わったようだ。ちなみに忍足がそう定評した跡部の水着は、ただの黒のシンプルなものである。確かに彼にしてみれば地味かもしれない。



「真田副ブチョ…」

「むん?」

「…お前、ふんどしのほうが似合うんじゃねぇの?」

「貴様らっ!」



立海のコントに数名が噴き出す音が響く。



「ていうか、皆気になってるのに言わないの?」



刹那、幸村の一言により鈍感な遠山、向日以外の全員の動きが見事に停止した。



「泉、どんな水着選んでくるんだろうね」

「…行くぞ」



躊躇いも無く言い放った幸村の言葉を手塚は流し、そしてそんな彼を筆頭に彼らは歩きだした。
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