「休憩だよー」



場所は変わり、こちらは氷帝。泉が来たのを見て、彼らは一目散に彼女に駆け寄った。



「泉ー会いたかったでー」

「はい、ジロー」

「ありがとー!」

「侑士シカトされてやーんの!」

「笑い転げてないで、向日君も!はい!」



当たり前のように無視された忍足を見て、向日は腹を抱えて笑う。やはり慣れているだけあってか他校よりも扱いが適当になっているが、それはむしろ泉にとって下手な愛情表現のようなものだった。



「泉酷いわ…」

「あー暗いオーラとりまくなって面倒くせぇ」

「先輩ーっ!」



それに、彼女が来た途端この有様になるのはいつもの事なので、本人も慣れたのかもう違和感は抱いていないようだ。語尾にハートをまき散らし恋する乙女のごとく近寄ってくる鳳を見て、まるで鳳君が女の子みたいだ、と満更でも無い事を思う。



「先輩、貰えますか」

「うんどうぞ。樺地君も」

「ウス」

「あれ?ハギと景吾が見当たらないけど」



とそこで泉は2人がいない事に気付き、手の中に余っている2人分のドリンク、タオルを見て周りに問いかけた。



「俺なら此処だよ」

「どこ行ってたの?」

「ちょっとお手洗いに。跡部はさっき監督に呼ばれてたから、もう少ししたら帰ってくるんじゃないかな」

「そっか」



しかしすぐに2人の居場所はわかり、泉は安心したように滝にそれらを手渡した。となると、残るは跡部の分のみ。



「景吾の此処に置いといていいかな?」

「別にいいんじゃねぇーの?」

「うん、そうだ、」



まだ仕事も残っているので、いつ戻るか不明確な跡部を待ち続けている訳にもいかない。そう思った泉は周囲に同意を求め、宍戸からの返事が来た所でまたマネ室に戻ろうとした。しかし、その相槌を打つと同時にちょうど放送がかかり、彼女の言葉は掻き消されてしまった。



「連絡する、各校の部長とマネージャー代表の朝倉は至急ミーティングルームに来るように。繰り返す…」



放送は榊の声で流された。レクの事だろうと勘付いた泉は、今一度彼らに別れを告げ、その場を離れた。



***



「今集まって貰ったのは勿論、」

「14時からやるレクの事ですよねー!?」



榊先生の呼び出しにより、各校の部長と私は宿舎内に集合した。集まるなり話を切り出した榊先生の言葉を、剣ちゃんが楽しそうに遮る。



「あぁ、葵の言う通りだ。そのレクの要領をお前達に事前に説明しておく」

「わかりました」

「ねぇねぇ、なんで先に呼び出されてたの?」



精市が相槌を打って榊先生が要領を説明し始めた時、私は隣にいる景吾に先程から疑問に思っていた事を小声で話しかけた。なんでも、今日使うビーチは跡部家のプライベートビーチだから色々確認されただけらしい。すぐに納得した答えが聞けた事に満足し、そのまま先生の話に耳を傾ける。



「最後に、水着の事だが」

「全員で行ったら混雑するのでは?」

「ウチのレンタルショップは大規模だぜ?」

「先程私が下見に行ったが、全員で行っても別段問題はなさそうな広さだった」

「どんだけでかいねん」



つらつらと説明がされていく中で手塚君が真っ当な意見を出す。私も彼と同じ事を思ったけど、景吾はさも当たり前とでも言うように返答をした。それにツッコむ蔵ノ介に、思わず同意!とハモる私と剣ちゃん。やっぱりそう思うよね。



「これから昼食をとった後、14時前には練習を切り上げレンタルショップに行く」

「これから昼食…?えっ、先生今何時ですか?」

「あと30分で正午だ」

「うわ、私用意しに行かないと」

「そう焦るな」

「いや焦りますよ」



そして今わかった現在時刻に、一気に私の気持ちは焦り始める。だって、後輩達だけにあの場を任せるのは危険すぎるもの。朝食はまだ軽いものだからいいけど、昼食からは食事がボリュームアップする分油の跳ねが絶えないし、包丁も多用する。

でもそんな私の心配は過保護すぎたのか、皆は口々にあいつらだってマネージャーとして来てるんだから、と声をかけてきた。とは言ってもなぁと思い眉を顰めていると、ウチのマネージャーはそんなあてにならないか?と止めを刺すように手塚君に言われ、浮かせていた腰を落とす。



「心配性なやっちゃなー」

「優しいですー!」

「それはどうも」



蔵ノ介と剣ちゃんが茶化すように言ってきたのを見かねて、話を榊先生に戻す。うん、きっと大丈夫だ、大丈夫。



「バーベキューと花火は火気を使用する為私達顧問も参加する。くれぐれも危険な行為、怪我はしないように。それでは行ってよし!」



そして、そのお決まりの台詞で私達はミーティングルームから出た。それと同時に皆とは逆方向に、私は厨房に駆けて行く。



「景吾ー!ベンチの上にドリンクとタオル置いといたからねー!」

「ああ、サンキュ」

「やっぱ心配性やなぁ」

「…アイツらしいぜ」



信頼してないとかでは勿論無いけど、やっぱり心配なものは心配だ。後ろで皆は笑いながら何かを話してるけど、それを気にする前に早くあの子達の元へ行きたい私は、少しうるさい足音を立てながらとりあえず走った。
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