「泉せんぱぁあい!」

「おぉー」

「その図体で思いっきり飛びつくな!」



本日最終日、私が担当するコートは氷帝と立海となっている。まずは氷帝コートに立ち寄ると、恒例の如く鳳君は抱きついて来た。そんな彼を日吉君と樺地君が抑制する。いつもなら割と面倒臭かったりするけど、今心が凄く穏やかなあたり、私にとってなんだかんだ氷帝が1番居心地が良いんだなぁと自覚する。



「楽しそうやな?」

「顔緩みまくりだぜ」

「はん、アホ面だな」

「泉はアホ面でも可愛いよー」

「それって喜んでもいいのかなぁ」



他の皆もわらわらと近寄って来た所で、景吾の揶揄にジローがフォローを入れてくれる。とはいえそれは素直に喜ぶには微妙すぎるフォローで、私はなんとも言えない気持ちになった。



「先輩、今日のご飯はなんですか?もう俺楽しみで楽しみで!」

「まだ決めてないよー」



相変わらず抱きついたままそう問いかけて来た鳳君に、口が緩むのを抑えながら必死に平然を装って答える。なんせ今日はお待ち兼ねのバーベキューデイなのだ。本当は数日前から決まってるけど、これはサプライズイベントだからお口はチャックしましょう。と思っていたら景吾も同じような事を考えていたのか、バッチリと目が合うなり楽しそうに笑った。



「何やその微笑ましいアイコンタクト、腹立つわー」

「あとべずるE!」

「内緒だよねー景吾」

「ああ、そうだな」



わざとらしくアイコンタクトを取る私達に、皆はここぞとばかりにつっかかってくる。それでも教えないけどね。



「泉ーっ!秘密は無しだぞ?」

「そうですよ先輩!」

「…うん、そうだね」



でもそこで、向日君と鳳君が何の気も無しに言ってきた言葉に思わず口が塞がった。だからドリンク作りに行くという言い訳でその場を離れ、皆に手を振る。

きっと氷帝の皆は私に秘密事とかなくて、自分で言うのもなんだけど信用してくれてると思う。対して私は、自分の正体はごく一部の人しか知らなくて、色々な事を秘密のままにしている。…それっていいのかな。皆の事は大好きだし、信用してる。でもなんで私は正体を言わないの?言う必要がないから?それとも、今の生活状態に慣れすぎたから?

理由は何にせよ、いつかは話さなきゃいけない事だとはわかっている。ほんの些細な一言から巡った考え事に、私の表情は少しだけ堅くなった。



***



「あちゃー…」

「ご、ごめんなさい!」



そして場所は変わり、洗濯の最中。それまで作業は順調に行われていたのだけれど、手を滑らせた朋が流してしまった手洗い用の水が、私に思いっきり直撃してしまった。突然の事に少し焦りつつ、慌てている朋を宥める為に声をかける。



「気にしないでいいよ、代えあるし大丈夫。着替えしに部屋行ってくるね?」

「風邪引かないで下さいね?」

「すみませんでした…」

「いいのいいの!」



Tシャツはびちょびちょになっちゃったけど、代えは沢山持ってきたし特に問題はない。そもそも手洗い洗濯というのは中々骨が入る作業で、勢い余って飛び散ってしまったというのはそれだけ頑張ってたという事だ。悪気は勿論無かったのもしっているし、私は軽い運動をする気持ちで部屋に向かった。



「と、朋ちゃん!泉さん…!」

「え?あ!ちょっ、泉さーん!…行っちゃった」

「誰にも会わなければいいんだけど…」



冷えるかなーと思ったけど陽射しは相変わらずだから、これもまた問題はない、むしろ暑さをしのぐことができて気持ち良い。そんな訳で私は少し浮かれながら部屋に向かった。だから、2人が私を呼び止めようと叫んでくれていた事になんて、これっぽっちも気付かなかった。
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