6日目-前編

「なんて優秀…!」

「このくらいの時間ならいつも通りだからね」

「ですね」



朝いつも通り皆を起こしに行くと、大石君とダビデを筆頭に3階のメンバーはほとんど起きていた。



「朝から跳びすぎやわぁ!」

「うるせぇっ!」

「はいはい2人共よく起きれましたねー」

「あ、泉やーっ」

「クソクソッ子供扱いすんなよな!」



絶対起こさなきゃいけないと思ってた金ちゃんと向日君も起きてるし、なんだか良い感じのスタートだな、と思っていると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえたのでそちらを振り向く。



「泉はんおはよう」

「ウス」

「2人共おはよう」

「いつもいつもお疲れ様!」

「河村君こそ、練習お疲れ様。あと今日1日頑張ってね。…さて」



振り向いた先には銀さん、樺地君、河村君の3人がいて、その爽やかさにまた私の心は潤った。でも、3階のメンバーは彼らだけじゃない。私の目線の先には、多分この階で1番起こすのが大変であろう人の部屋がある。



「…手伝うか?」

「ジャッカル君八つ当たりされちゃいそうだから、先食堂行ってて大丈夫だよ」

「朝倉…!」



私が一応気遣ってそう言うと、ジャッカル君は感動したような様子で名前を呼んで来た。うーん、よっぽど苦労してるみたいだ。頑張れジャッカル君。それじゃ、皆が行った所で行きますか。

それにしても、ブン太は兎も角手塚君まで珍しいなぁ。未だに物音1つ聞こえない2つの部屋に対しそんな疑問を抱きつつ、まず最初にブン太の部屋に入った。



「…ほんと切原君と兄弟みたいだわ」



入るなり最初に目に飛び込んで来た、ベッドから落ちているブン太を見て、前もこんな展開あったようなと頭を痛める。お腹もはだけてるし、風邪引いちゃいますよー。なんて言ったところで起きる人材では無い。



「ブン太、起きて」

「くかぁー…」



それからも何回か声を張り上げたり、体を揺さぶったりして色々試行錯誤してみたけれど、結局そのイビキが途絶える事は無かった。最終日という事もあって疲れがピークなのかもしれない。観念した私は後回しにして手塚君に手伝って貰おうと決め、珍しく寝続けている彼の元へ行く為に部屋を出る。

テクテクと歩き、やっぱりまだ静かな手塚君の部屋を控えめに開ける。



「手塚く、え!?ごめんなさい!」



しかし、開けた先には着替え中で上半身裸の手塚君がいて、私は瞬時にドアを閉めた。寝てると思って完全に油断してた…本当に申し訳ない。どうやって顔出せば良いだろう、タイミングが掴めない!と1人廊下で狼狽えていると、ふいにドアが開いた。



「すまない、俺が寝過ごしたから起こしにきてくれたのだろう?」

「うん、そのつもりだったけど邪魔しちゃったみたいで…ごめんね」

「気にするな、元は俺が寝坊したせいだ」



部屋から出てきた手塚君は相変わらずポーカーフェイスで、とりあえずは気にしてないみたいで良かった。昨日油断しないと決めたばかりなのにもうこの有様だ。彼の優しさにつくづく感謝する。



「それにしても、手塚君が寝坊なんて珍しいね」

「まぁな」

「…ちびっ子2人?」

「遅くまでトランプで盛り上がっていたようだ」

「遅くまでなら注意してもよかったんじゃない?」

「既にベッドの中にいたから、気力がなかった」

「わかるその気持ち」



どうやら彼が寝坊した原因は向日君と金ちゃんにあるらしく、それがどれくらいのうるささなのか簡単に想像がついてちょっぴり同情する。加えて、手塚君でも私と同じような面倒臭いと思うポイントを持ってるんだなぁと新発見。なんだか新鮮だ。



「でも、逆にあの2人は珍しくお目覚めバッチリだったよ?」

「風呂内で寝ている所を助けられていたが」

「あ、そういう事ね…」



図らずもあの2人があんなに元気だった理由が発覚し、少し乾いた笑いが口から零れ出る。違う時間に寝てたとはずる賢いというか。



「あ、っていうか手塚君、ちょっとお願いしても良いかな」



折角の機会だしもうちょっとお話していたいけど、他にもやるべき事があるんだった。それを思い出した私は、手塚君に頼み事をするべくそう話を切り出した。突然の言葉に彼は不思議そうな表情を浮かべている。



「ブン太がね、」

「行くか」

「わかってくれてありがとう」



そして、私がそこまで言っただけで理解してくれたのか、手塚君は足先を方向転換した。朝食まで後15分、私達はブン太を起こすべく彼の部屋へ足を運び、ドアを開けた。

が、その先で目にした光景には思わず絶句する。さっきより体勢酷いってどういう事だ。



「ブン太ー、起きてー」

「ぐー…」

「丸井!起きろ!」



私の呼びかけではやっぱり起きなかったので、見兼ねた手塚君が手元にあったハンガーで丸井君を殴った。そうすると彼は叫びながら飛び起き、殴られた頭を涙目で抑えてる。寝ぼけた状態で殴られたらそりゃ痛いよね…自業自得ではあるけど、ドンマイブン太。それにしても容赦ないなー手塚君。

でも少し経つと痛みが引いたのか、ブン太はまた目を閉じて寝ようとし始めた。このままだったら確実に二度寝するからそれを防止する為に、私は上半身だけ起こしているブン太に視線を合わせ、その頬をつねってみた。すると今度こそ即座に飛び起き、ベッドからも出た。よしよし。



「俺顔洗うから、先行ってろぃ」

「うん、わかった」



妙に白々しく言ってきたブン太に首を傾げつつ、手塚君と一緒にそこから出る。その時2人が微妙な表情でアイコンタクトを取っていた事など、私は知る由も無かった。
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