「今日俺らんとこ担当なのー!?」

「うん、そうだよ」

「やったねー!」



そう言いながら菊丸君は、私の両肩を持ってガクガクと揺さぶって来た。彼的には喜びを表現してるに違いないんだろうけど、あまりの激しさにちょっと目が回る。

今日私は青学と六角を担当する事になっている。一昨日タオルを頭の下に敷いてあげて以来、菊丸君は本来のフレンドリーさを私にも向けてくれるようになった。スキンシップが激しすぎるのが玉に瑕だけれど、朝のサエとかあぁいう確信犯組に比べたら全然可愛いものだ。



「そんなに喜んでくれるの?」

「あったりまえじゃーん!」



全力で猫のようにじゃれてきた彼を見て、親切にしてくれた人全員にそんな態度取ってたらすぐ騙されちゃうよ、といらない事を頭の中で思う。



「英二、何してるの?」



と、その時。なんか悪寒がするなぁと思ったら、絶対零度の雰囲気を醸し出した周助が私達の元にやってきて、そのまま私に抱き着いていた菊丸君を容赦なく引き剥がした。例えるならば、蛇に睨まれた蛙状態?



「暴力はいけないと思いまーす」

「やだなぁ、そんな酷い事僕がする訳ないじゃない」

「どうだかね」



続いてやってきたのはリョーマで、これ以上状況を悪化させないでほしいと切に願う。だから私は自分が巻き込まれる前に、練習メニューを確認するという名目で手塚くーん!と彼の方に走り寄った。後ろであ、逃げた、と2人分の声が聞こえたけれど、知るものか。



「朝倉か」

「逃げてきました」

「だろうな。朝倉が練習メニューを把握してない事はないだろう」

「認めてくれてる?」



周助から逃げ出せばもう安全地帯だ。私の問いに少し照れ臭そうに(相変わらず仏頂面だけど)あぁ、と小さな声で答えてくれた手塚君を見て、嬉しくなって私も笑顔を浮かべる。



「じゃあそろそろ仕事行くね」

「あぁ、頑張ってくれ」

「ありがとう。手塚君もね!」



そして私は今日の仕事の準備をすべく、マネ室に戻った。



***



「そっかぁ、やっぱり皆モテるんだねー」

「バレンタインとか凄いですよ」

「不二先輩は誰のでも受け取るから誰よりも多いんですよっ!」



そして戻って来たマネ室では、青学の皆のモテ具合についての話題が繰り広げられていた。朋が興奮気味に言った内容には、さっきの事もあってか苦笑しか出来ない。だからドリンクを作り終えたのを良い事に私は話題を逸らし、マネ室から出てそれぞれ担当校に散った。



「泉さーん!」

「はーい」



六角はもう休憩に入ってて、手を振りながら私を迎えてくれている。ただのマネなのに優しいなぁー、と思いながら、小走りで彼らの元に向かう。



「ご苦労様」

「…うん」

「そんな警戒しないでよ」

「努力する」



1番最初に迎えてくれたサエを見て、朝の事がフラッシュバックして思わず後ずさる。そういえばさっき思ったんだけど、周助とサエってなんか似てる気がする。例えばこんな風に、ちょっと腹黒い所とか。

なーんて思っているとサエは心を見透かしたように何?と笑顔で顔を覗いて来たので、私は急いで頭を振った。六角の部長が剣ちゃんで本当に良かったと思う。



「やっぱりドリンク美味しいのねー」

「ありがとー!」

「にしてもこれだけの仕事量をあんだけのマネの人数で、大変じゃないのか?」



順々に配っている途中で、バネさんにそんな質問を投げかけられる。



「そりゃそうだけど、甘ったれた事言ってられないからね」

「真似したい、マネ」

「それは褒め言葉?」

「そうですよー!見本にしたいって事です!」

「光栄です」



ダビデの駄洒落に私が嬉しくなって微笑むと、皆も笑ってくれた。他には無い癒しの空間に頬がだらしなく緩む。



「まぁ、厄介な人達には気をつけて」

「忠告ありがとう」



でも、亮君の言葉には思わず苦笑した。確かにもっともな忠告ではあるんだけどね、常に心構えしておかなきゃ何が起こるかわからないし。



「それじゃ引き続き練習頑張ってね!」

「また来てなのね!」



さて、お次は青学行きますか!
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